色、いろいろの七十二候
第64回
桜始開・寄り道
一斤染 #F9AE94
若竹色 #68BE8D
土筆は植物の正式な名前ではありません。春に見られるツクシは、シダ植物の仲間、スギナの胞子茎です。ツクシの跡に生えてくる緑色の栄養茎(いわゆるスギナ)は、取っても取っても取りきれず、地の底まで伸びている、などと揶揄されます。この生命力故か、ツクシ・スギナは民間療法では重用されています。
民俗学者の柳田國男は、ツクシは澪標(みおつくし)のつくしであって、突立った柱を意味する、と推定しています。
ツクシは地方によって呼び名がさまざまです。柳田によれば、
など、
またスギナの呼び名も
といった呼ばれ方がある、とされています。
ツクシを使った「どこどこ継いだ」などと呼ばれる遊びがあります。各地のさまざまな呼び方にも見られるように、ツクシには節があり、それが繋がったような姿をしています。節から引っ張るとツクシは簡単に2つにわかれます。これを元にもどして、そのツクシをどこでつないだかを当てる遊びです。
胞子茎のツクシで遊ぶ地域もあれば、栄養系のスギナで遊ぶ地域もあるようですし、この遊びの呼び名も各地でさまざまでしょう。
ツクシが見られるようになる頃は、暖かくなり、まさに寄り道シーズンの始まりです。昭和の小学生は、学校の帰り道、先生には寄り道せずに帰りなさい、と言われるものの、小学生たるもの、寄り道のために登下校しているようなところもあって、空き地があれば立ち寄って、何か楽しい物はないものかと目を凝らしたものでした。
現代は、空き地にも所有者が立ち入りを禁じ、子どもはGPS付き携帯電話を持ち、およそ寄り道を極めようとしても厳しい状況かもしれません。
大人はカーナビ・スマホのマップを活用して最短距離で移動します。目的地を設定してしまえば、それはもう寄り道ではありません。
ツクシが食べられることを知らない人も増えています。「どこどこ継いだ」の遊びのもとにもなる節は、食べる際には取り除くので、調理にも時間がかかって、現代のファスト化した食事上にはまったく似合いません。
スギナは先に上げたように防除が難しいため雑草として嫌われていて、除草剤の謳い文句には「スギナにも効く」「スギナも枯らす」というコピーが誇らしく踊っています。
スギナが生えた→除草剤、という発想は、カーナビによる、出発地→目的地という直線的思考に通じます。
さて、子どもも含めて忙しい人ばかりの現代、そのほうが効率がよいのは確かです。だけど、スタートとエンドの間には、もっといろんな寄り道があってもいいではないですか。食べられるかもしれない、遊べるかもしれない、何かいいことあるかもしれない。寄り道バンザイ!
(2014年03月21日の過去記事より再掲載)