工務店女子が伝えたい家づくり

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暮らしのシフト「郊外へ」
たくましく生きる

街の活気をようやく取り戻しつつある自粛あけ。もうすぐ梅雨もあけます。
コロナ禍による自粛の解除はされましたが、新しい生活様式を取り入れた暮らし方、人との接し方など注意を払いながら、周りの様子をよく観察して行動することが求められています。
自粛期間は積極的にお会いすることが叶わなかったため心配をしていましたが、解除後に実際にお会いできる時期になったところで、気になっていたクライアントやOBさんたちとお話する機会をもたせていただき、自粛期間中のお家での過ごし方などを聞くことができました。

世界的ロックダウンなど大きな影響を及ぼしているコロナウイルスですが、いまだ収束はしておらず、また今後収束したとしても、新たなる問題はいつ起こってもおかしくない訳です。
このコロナウイルスを封鎖するために、日本でも可能な限りの自粛を呼びかけに応じた店舗や飲食店などが時短営業、休業をして臨みました。
この経験は、私たちの暮らし方や考え方に大きな変化をもたらしたことは間違いありませんし、人は一度経験したことはすぐに対応できる傾向があるため今後同じようなことが起きれば、また休業、時短、できる限りの自宅勤務などは通常化され、増えていくことは容易に予測できます。

外に出ないように過ごした自粛中の時間を振り返ってみると、これほど長い期間を家族で、しかも外出せずに家の中で過ごすことは、現代の日本人にとってとても希少な経験だったような気がします。日本では一般的に何か月もの長期休暇をとる習慣もありませんし、子供たちも学校は長くても夏休みが40日ぐらいあるけれど、部活動や出校日があって忙しいです。家にいる時間が長いというだけでなく、いつまで続くか知れない期間を家族だけで過ごした経験は、沢山の人の不安をもたらすこともこともあったでしょうし、根本から思考の変化を起こすほどのものであったのではないかと思います。

そして「家」での過ごし方について、大きく変化を必要とした方がいたと思います。「家」を具体的にどういう場所だと聞かれると、仕事をして帰る場所、疲れを癒す場所、くつろぐ場所、団らんなどをイメージして家づくりを考える方が多いのだと思いますが、長期間外出を控えて家に籠ってすごしてみると、「家」の考え方の変化が起きてきたと感じています。

その一つとして、都心に住んでいる方の中に郊外の暮らしにシフトしようという考えがでてきたことです。その多くは都心での暮らしの必要性を感じなくなった人が現れたということです。
都心という定義は人それぞれですが、ここではあくまでも住まう場所を考える理由として捉えると、都心での交通アクセスや物を購入したり食事をしたりするサービスを受けやすいという「便利さ」にフォーカスして考えたものです。
今までは郊外の暮らしについて、例えば通勤、通学のための交通アクセスがよくないこと、欲しいものを手に入れるための店舗がないなど「不便さ」ととらえられていたため、住む場所としては適さないという方が相談者の中でも多くいらっしゃいました。そのため、土地の購入資金が家づくりの資金を圧迫することも少なくありません。
しかし現在、在宅ワーク化によって通勤という物理的な距離問題がなくなったことで、家を建てる場所への考え方が変化し「豊かな自然のある暮らし」という違った面にフォーカスして考える方がでてきました。たった数か月の間でこれほどの変化が起きるとは予測できませんでした。
この郊外ワーカー的な考えは、すでに広まりつつあり、仕事の仕方も「自宅から世界へ」つながることが可能な時代なので、有能な人材は日本中、世界中のどこに住んでいても就職や、契約することができる可能性に溢れた時代となっています。
現に、すでに郊外への住まいをシフトする動きが始まっています!

そこで、私たち工務店のできることはなんでしょうか。
工務店の仕事、打ち合わせ面談や設計などの業務は一部オンライン化されテレワークでの従事も進んでいますね。必要とされれば、日本中、世界中で仕事することは可能です。
でも私は、「家」にいる時間が長くなり見直される今だからこそ、その土地と向き合い、その敷地のもつ力を読み解き暮らしをプランニングをして、職人さんの手仕事で形づくっていくことが求められ、何処でも仕事ができる今だからこそ、「家」を見直し始めている。そうした人たちが望む家づくりができるように工務店が有ってほしいと思っています。
郊外の暮らしへ目を向けるということは、「便利さ」へフォーカスしない土地への魅力へ目を向けられるということです。もちろん、郊外のほうが土地が安いため家づくりの費用が抑えられるという点のみでメリットを考える人もいるでしょう。しかし私は、豊かな暮らしについて伝え続けることで、より多くの人に郊外だからこその暮らし、自然素材を使い移り行く時代に左右されない価値観をもった建物を造りつづけることは何があっても変わるものではないと伝えたいと思っています。

これは自粛中の私の勝手な私見なのですが、連日テレビで芸能人やコメンテーターがオンラインで番組に参加している姿を見ましたが、画面から見える画面の無機質な空間に驚きました。(普段からテレビの中や本の中でも建物の中で撮影されたものは、すべて背景の建築にしか目が向かないという職業病でもあります・・・)がそれは、都会の高層のマンションだったら当たり前なのかもしれないし、テレビに映るからとそういった場所をわざわざ背景にしていたのかもしれませんので偏った見方と言われても仕方ありませんが、このようなところに数か月ずっと籠っていたらそれは辛そうだなと思ったものです。
皆さん「今は我慢の時です!」「一緒にがんばりましょう」との言葉が私には「家に籠っているのは辛すぎる」と聞こえたように思います。
そもそも、家とは癒しの場所で、くつろぎの場所で、どれだけ家に居ても苦痛なはずがない、それは家のあるべき姿ではないと思うのです。いいえ、そうでないことを祈りたい気分です。
私たちが家づくりについて、クライアントと話している中で「このお家だったらずっと出かけずに過ごしたくなる」とか「ストーブの炎を見ていると時間の経つのを忘れるね」と、考えることが当たり前のことで、家に居ることが、我慢だったりましてや頑張ってすることではないのです。
だから、自粛があけたあとお話をうかがっても、みなさん「家に居ることは辛くなかった」とおっしゃいますし、私も、ウイルスに対してはもちろん未知の脅威はありましたが、家に居ることが辛く我慢がいるものだとは全く感じていませんでした。
周囲の方の過ごし方をうかがっても、お庭や菜園のある方は、空いた時間でお花を育てたり、野菜を育てたりと、今できることを小さなことから見つけてはじっくりと向き合って、それぞれの時間を豊かさに変えていたと思います。
こうした脅威の中でも、人は、たくましく人間らしさを取り戻していくものなのかもしれないと、改めて勇気が湧いてきました。
たくましさがあるからこそ、郊外に住むという選択肢をもって変化をとらえた人が増えるのは自然なことだと感じていますし、もともと住んでいる人たちと上手にコミュニティを形成できるように繋がりを大切にしながら、移り住む道を選択しやすいようにサポートしていくことで、それぞれの地元で活躍している工務店の力を発揮できる時代がやってきているのではないかと考えると、まだまだ、いえもっともっと私たちにはたくさんの可能性が感じられて仕方ないのです。

著者について

石原智葉

石原智葉いしはらともよ
工務店女子
愛知県西尾市生まれ。釣りが好き。月を見るのが好き。地元食材や、地元で作られたものが好き。 シンプルな暮らしにあこがれる。これは、まだ実戦途中。 設計の仕事では、お客様のプライベートにぐっと入り込んでお話しします。たくさん考えて出した答えは後悔することが少ないので、満足できる家づくりに繋がります。お互いに信頼しあい、人間関係を築くことも家づくりに携わる上で大事な使命だと考えています。
イシハラスタイルにて、家づくりの仕事をしています。

連載について

自然素材を使った家。 日々の住まいのメンテナンス。 工務店にとっては当たり前のことも、大手メーカーにはできなかったりします。 リノベーションも、工務店の力の発揮どころ。 けれど、そんな事実が伝わらず、家はどれも同じ、とばかりに建てて(買って)しまう人がとても多いです。 スクラップ&ビルドはやめて、地元の工務店・職人に家づくりをお願いしたら、どんなことが起こるのか。 工務店女子・石原智葉さんの「伝えたい」という気持ちにあふれる声をお聞きください。