工務店女子が伝えたい家づくり

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選ばれる人となる。

キッチンバサミ

「モノ」から「ヒト」検索へ。選ばれる人となる。
何かを買おうと思ったときの、人の行動が変わったのだ。
スペックを競い宣伝し選ばれる時代から、その物は誰がどのように作ったかに共感し売れる時代になってきた。

つい先日、切れが悪くなってきたキッチンバサミを買い替えようと思い立った。
そのときの私の行動が、まさにそれでした。

instagramで #キッチンバサミ と検索!
たくさんのハサミの画像。ハサミの写真だけでも、こんなにたくさんの人が発信してるのか!と調べてみて改めて驚く。
まぁでも、たくさんあるからこそ選び甲斐もあり、私は1時間ほど写真を見ていただろうか。その中から、自分の好みのものをいくつか見付ける。
それから、私はさらに写真の中へ入っていく。
その写真の中のハサミは、いったいどんな暮らしをしている人が使っているんだろう。
丁寧に手入れされ、壁に吊るされたかわいらしいハサミを見ていると、それを手にした自分が手に入れた後の暮らしを想像してワクワクしてくる。
それと同時に、この写真をとった人が、この一枚のためにどれほどの時間をかけ、わざわざ発信しようと思ったのかな、このハサミを作った人は嬉しいだろうなと考えていた。

それから、そのハサミは、どんなところで作られているのか。断然興味がわいてくる。
ひとつひとつ丁寧に作られているからこそ、発信する側も、その思いを載せることができる。
大量の工業製品だったら、ここまではしないかな。などと、ちょっと穿ってみたりして。

物を買う時、人はその背景にあこがれると言ってもいい。
そこにストーリーがあることで、そのハサミを選ぶ理由を見つけられるから。

洋裁の時につかう、ラシャ切ハサミを昔ながら、一丁一丁、丁寧に作っているという言葉を見つけた。

値段は決してお安くはないけれど、手入れをしながら、時には修理をしてもらいずっと使い続けることができる。
定番の形であることも、タフさと、そしてキッチンでの使いやすさも考慮されている。

わたしは、もうこのちょっと高いハサミを購入するための言い訳するために、情報を集めていたら、社長さんのブログにまで行き着きました。
なぜこんなに惹かれるのだろうか、その理由はHPにある社長さんのブログを見て分かった。
社長さんは四代目日記というのを書かれていて、そこには社長さんの日常の思いがつづられていて、お仕事への取り組み方も読み取れます。
代わりのきかないお店、というタイトルの文中に、
「どこでも売っているものだけど、買うならあのお店で」
そういうお店を作る必要があると思います。価格も大型店舗やネットとの競争には勝てません。お店に通いたくなる魅力を磨くしかないのです。
物づくりの中にも、手軽さや便利さに勝る魅力を作ることは地方で細く長く続けていくために必要なことです。
とありました。私たちの強みはなんなのか、これからどのようになりたいのか。じっくり考えようと思います。とあります。

地方で、小さい会社が生き残っていくためには、これしかないのかな。と私も思います。

そして、同じぐらい大切なこと。

同じく多鹿治夫鋏製作所のHPにメッセージとあり、その内容に、私はとてつもなく衝撃をうけました。

https://takeji-hasami.com/

以下、抜粋です。

今、日常生活の中のあらゆる場面で使われているハサミ。
このハサミは一体どこでどんな風にして、作られているか皆さんご存知でしょうか?

(中略)
近年において100円ショップに代表される大量生産・大量消費により、
手作りで作られる伝統的な製品は、価格と手軽さに押され縮小していきました。

この問題には、作り手である職人や小売店側にも問題はあります。
その品質・機能・デザインの良さ・こだわりを伝える努力をしなかった、
する場所がなかった。
つまり、購買者に「商品を選ぶ基準」を示さなかった(基準は価格と手軽さのみ)
ここに大きな問題があるのではないかと思います。

(中略)
「モノ」を作っていれば売れていた時代を生きてきた伝統的職人には
「俺は作るだけ」という方が多いのは事実です。

しかしそれでは、たとえ素晴らしい商品を作ったとしても売れない時代。
いかに良さを伝えるか、いかに知ってもらうか。

ここが、伝わる一つの場所となれば幸いです。

多鹿治夫鋏製作所

私も、心のどこかで思っていました。
良いものを造っていれば、お客さんは勝手に来てくれるものだ。
真面目に、正直に仕事をしていればいつか報われる時が来る。
でも、実際は違う。
もう、この情報に溢れた世の中で、検索したところで上位に上がるところが一番選ばれる時代でもないし、情報を得る側も、その情報を「正しい」と判断することが「正しい」とも思っていない。
評価も、星の数も、一定の基準にはなるけど、本当に欲しいものを得るためにはあてにはならないことに気付き始めている。

じゃあ、いったいどうやって、本物を探すのか?

それは、私が一番冒頭で述べたことに答えがあるのかな。

自分が欲しいものを持っていそうな「人」を検索するのです。そして、私はこのハサミとこの社長さんにたどり着きました。
この社長さんのいる会社で作られたハサミなら、一生いとおしく手入れをしながら使い続けられる気がしています。

「物」から「者」へ検索の仕方は変わりました。

スペックが良いもの、他社より優れたモノづくりをするのは、もう当たり前なのです。
それを、いかに伝えられるか。

だからこそ、この「住まいマガジンびお」の当初から言われている発信力を担うのは、工務店女子たちではないかと思います。

家づくりにおいて、情報の多さに迷い困ったとき、私たち自身がお客様の選ぶ基準となれる「人」として道しるべになることができれば、その人の使っているもの、扱っている商品を見付けてきてもらえる様になります。

このコミュニティでいかに伝えるか。伝えられる場所にしていくか。
考えてみたいと思います。

著者について

石原智葉

石原智葉いしはらともよ
工務店女子
愛知県西尾市生まれ。釣りが好き。月を見るのが好き。地元食材や、地元で作られたものが好き。 シンプルな暮らしにあこがれる。これは、まだ実戦途中。 設計の仕事では、お客様のプライベートにぐっと入り込んでお話しします。たくさん考えて出した答えは後悔することが少ないので、満足できる家づくりに繋がります。お互いに信頼しあい、人間関係を築くことも家づくりに携わる上で大事な使命だと考えています。
イシハラスタイルにて、家づくりの仕事をしています。

連載について

自然素材を使った家。 日々の住まいのメンテナンス。 工務店にとっては当たり前のことも、大手メーカーにはできなかったりします。 リノベーションも、工務店の力の発揮どころ。 けれど、そんな事実が伝わらず、家はどれも同じ、とばかりに建てて(買って)しまう人がとても多いです。 スクラップ&ビルドはやめて、地元の工務店・職人に家づくりをお願いしたら、どんなことが起こるのか。 工務店女子・石原智葉さんの「伝えたい」という気持ちにあふれる声をお聞きください。