町の工務店探訪①
全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。(企画=町の工務店ネット)
Vol.3 現場を支える合理的な社内システム
長崎・浜松建設
「風の森」の“森づくり”と「風びより」の“町づくり”に、かなりの労力をかけているようにも見える浜松建設。さらに濵松社長個人に注目すると、地元FM局のラジオ番組に出演したり、学校で講演をしたり、あちこち飛び回っているようだ。
このように、一般的な工務店ではありえない多岐にわたる業務が並行する状況で、肝心の家づくりはどのように進めているのだろう。まずは社内の様子をのぞかせてもらうと……。
浜松建設に集まっている、人材と素材
「風の森」内にある本社では、設計・デザイン室、現場・工務部門、営業部門それぞれ5名前後のスタッフが働いている。設計は女性が多く、現場・工務と営業は男性中心で、全体的に20代〜30代前半の若い方が多い。20件ほどのプロジェクトが同時進行しており、それぞれの部門の担当者が複数物件をかけ持ちで進めている。
「風びより」に隣接する木材倉庫群には、柱・梁材、仕上げ材、銘木などが整理されている。浜松建設による建物は、外注している棟梁大工が、ここにある材を使って建てていく。また家具職人が在籍し、造り付け家具の制作のためのスペースもある。
スギの柱梁と無垢の床、大黒柱のある家が、浜松建設の家に共通する特徴。柱や梁材および床材は大分県、熊本県、宮崎県産のスギが中心で、土台には対馬ヒノキなどを使っている。また和風住宅でなくともさり気なく銘木を取り入れるのが、材木店をルーツとする工務店ならでは。銘木は、お客さんに倉庫を見てもらって選んでもらうこともある。「仕様と金額を決めて契約した後に、追加料金なしで銘木を入れることもある」と濵松社長。
坪単価は55〜60万円/坪がボリュームゾーン。注文住宅としては設計に自由が利くのが特徴だという。濵松社長いわく「あまった材料を上手く使う、タイルや石といった異素材も混ぜあわせるなど、設計をする上では遊びを大事にしている」とのこと。デザインの面でも意外性や遊び心を大切にしているようだ。
家づくりの複雑な流れを
「クラウド」で統合する
浜松建設の多岐にわたる業務を影で支えているのが、「クラウド」だ。Webベースの市販のソフトウェアを活用し、顧客データから工事や材料の発注、契約書、現場の進捗状況、入金や売上などお金の流れまで、建設業特有の複雑な流れを、誰がどこにいても情報共有できるように整備している。「しゃっと見せましょうか」と、濵松社長はテーブル上のモニターとご自身のiPadをつなぎ、デモを見せてくれた。
濵松 これ、進捗状況がすべて見えるわけです。ある顧客の情報を開くと、4日前に打ち合わせをしたとか、その1週間前に見積書を渡したとか、すぐわかる。個人のノートってばらばらじゃないですか。ここに集中させるわけです。現場に行ったときにどういう状況だったかもしっかり書きなさいよと指導しています。ルールも細かいところまでしっかりつくりましたね。
——すごい! 打ち合わせの議事録も、現場の進捗も、逐次アーカイブされていくんですね。
濵松 私の決裁もね、ほら、こうして5分でできる。自分が遊ぶためにもね、どこでも仕事ができるように「クラウド」の仕組みを最先端にしているんです。逆に私がいない方が、さばける仕組みです。
——こういう仕組みを扱うのは若い方のほうが慣れていそうですが、社員さんの平均年齢は?
濵松 34歳です。最近下がりましたね。新卒採用に切り替えているんです。社内での仕組みが構築できているから、1年生でもすぐに対応できます。専門の業者さんにお願いする費用や設備の仕入れの金額を統一していて、見積もりに時間をかけたり、「上の者に確認するので」とお客さんを待たせたりしないようにしています。
木や自然に囲まれた暮らしの魅力を、あらゆるチャネルを駆使して発信する浜松建設。つくられる家からは、材木店のストックを活用した、素材の魅力が感じられる。一方で社内の仕組みは意外なほど合理的で、「風の森」「風びより」のゆったりとした環境からは想像できないほどの即断即決型。濵松社長と村上さんから伝わってくる、スピード感あふれる仕事ぶりもすごい。背景にあるのは、人を喜ばせたい、楽しませたいという徹底したサービス精神だろう。社内システムの合理化も、スピード重視の仕事ぶりも、お客さんにストレスをかけず家づくりを進めることにつながっている。ここに家づくりをお願いすれば、できあがる家だけではなく家をつくる体験そのものも、楽しいものになりそうだ。
(完結)
記事は終わってしまいましたが、村上さんのお仕事について、もっと知りたい!と思った編集部は、村上さんに連載をお願いしました。
工務店の魅力を伝える仕事
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