F・LL・ライトに学ぶ
ヴィンテージな家づくり
第2回
ライト自邸「タリアセン・ウエスト」
前回書いたようにタリアセンは、F・LL・ライトの家族、弟子たちとその家族、学生たち合計70人ほどが、共同生活を営む設計事務所であり建築学校です。このタリアセンは、ウイスコンシン州にタリアセン・イースト(Taliesin East)、アリゾナ州にタリアセン・ウエスト(Taliesin West)と2カ所あります。日本と緯度で比較するとEastは札幌。Westは長崎あたりです。
日本での帝国ホテルの仕事の後、ライトは、故郷であるウイスコンシンに戻りました。30才年下のオルギバンナと再婚したライトは仕事がなく、夫人のすすめもあって建築学校を始めます。敷地と校舎はライトの叔母たちが運営していた学校を引き継ぎました。若い学生たちと共同生活を始めたのです。ライト65才の頃です。ウイスコンシンの冬は寒く、アリゾナの荒野の魅力を知っていたライトは、アリゾナ州フィニックスの郊外に広大な土地を購入し、冬はアリゾナに移動してキャンプ生活を始めます。私が在籍していた当時、ミセス・ライトことオルギバンナはまだ健在で、6月から10月頃までは、ウイスコンシン、11月から5月までは、アリゾナと二地域居住を続けていました。スタッフ・学生ほぼ全員が移動します。
タリアセン・ウエストの建物は、全て学生たちの自力建設です。ライトは体験を重視していました。素材の性質・特徴を知るには、観察すること、触ることが大切だと。施工も学生にさせたのです。遠藤楽さんがタリアセンに留学していた当時、ライトは89才でした。日曜日の日中、楽さんが一人で製図室で図面を描いていると、ライトが入ってきて、「建物の中に居ないで大自然を観察してきなさい」と声をかけられたそうです。
タリアセン・ウエストの周囲は、石ころとサボテンが広がる荒野です。見通しがきくので道がなくてもどこへでも歩いて行けます。ライトたちは、周りにころがっている茶色い石を拾いコンクリートに埋め込んで独特の壁を築き、木綿のキャンバスパネルで屋根を造りました。柔らかな自然光が入る幕天井です。アリゾナでは滅多に雨は降らないのですが、キャンバスの屋根は時々雨が漏ったそうです。私が居た頃は、屋根材はプラスチックに変わり、現在は天幕用のシートに変わっています。