びおの珠玉記事

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世界の雨・日本の傘

世界の雨

梅雨、という言葉を聞くと憂鬱になる、そんな人もいるでしょう。雨は大事な水循環のしくみ、とわかっていても、やっぱり晴れたらいいな、と思ってしまう。どうしてなんでしょうね。
雨降りの日は、なんとなく気が重い。雨にうたれて体温が低下することは、エネルギーコストパフォーマンスがよくないから、動物も、雨の時には活動が鈍くなる傾向があります。
とはいえ、世界ではそんなに雨が嫌われているわけではありません。

ヨーロッパでは、日本ほどに傘をさしません。雨の量自体も日本より少ないのですが、雨が降ったら走る、雨宿りする、そのまま濡れる、という人が多いようです。英国紳士は、雨が降っても傘をささない、というのは有名な話です。もっとも、イギリスの雨は霧雨のような雨が中心だから、それほどびしょ濡れにはなりませんし、傘は日傘のイメージ、つまるところ女性用のイメージが強くて、傘をさすのに抵抗がある、なんていう説も、まことしやかに伝えられています。ニュージーランドでも、傘をささない人は珍しくありません。

霧雨のロンドン。

ところ変わって東南アジアでは、激しいスコールがあったりします。でも傘を使わない人もたくさんいます。傘があっても濡れるから? それもありますが、スコールはすぐに止むから、雨宿りをしてやりすごすのです。

タイのスコール。みんな雨宿り中です。

傘消費大国・日本

そういう国に比べたら、日本人は傘が大好きな国民といえます。ちょっとした雨でも傘がほしい。天気予報は、「お出かけには傘をお持ちください」と訴えかけます。そんなの個人の自由では、という気もしますが、とにかく雨には傘、なのです。

竹下通りの傘、傘、傘。

そんなニーズに応えてか、いまやビニール傘は使い捨て感覚の低価格で販売されています。これらのほとんどは輸入品で、かつては洋傘の輸入量は、1億3千万本を超えていました。コロナ禍で輸入量は減ったものの、それでも直近でも8千万本を超える輸入量があります。毎年のようにこれだけの数が輸入されているのです。一体、その傘たちはどこに行っちゃうんでしょうね?
町角に、骨が折れてひっくり返ったビニール傘をみるのも珍しくありません。低価格なビニール傘は、耐久性も高くありませんし、低価格ゆえに壊れれば放棄しても惜しくない、ということなのでしょうけれど…。もったいないですね。

和傘と木材

これだけの数の洋傘が輸入、販売されていますから、身の回りにあるのはほとんどがビニール傘などの洋傘です。和傘は戦後、急激に洋傘にシェアを奪われて、職人も激減しています。
それに追い打ちをかけるように、材料の入手が困難になっています。和傘の傘骨をつなぐ「ろくろ」と呼ばれる部品があります。近年、このろくろを作っていたのは、全国でも、岐阜県内の一箇所の木工所だけでした。ろくろにはエゴノキが使われます。このエゴノキを伐って、木工所に収めていた人が亡くなってしまい、エゴノキの供給がストップしてしまったのです。

和傘の骨をつなぐ「ろくろ(黒い部品)」がない!

エゴノキは、家庭の庭にもよく使われる、別段珍しい木というわけではないのですが、傘のろくろに適した木というのは、なかなかないようで、山に入って探さなければいけません。
エゴノキは、里山で炭焼き用の木を伐り出すときに、一緒に伐られて供給されてきましたが、炭焼きが行われなくなると、エゴノキも伐られなくなり、供給されなくなった、というわけです。
それを憂いた人たちが「エゴノキプロジェクト」を立ち上げました。皆で山に入り、エゴノキを伐りだす取り組みがはじまり、和傘づくりに必要なエゴノキの供給と、ろくろの生産が続くことになりました。それでも、自生するエゴノキは少なく、植林も育つまでには時間がかかります。メンバーがそれぞれ、力をあわせて持続可能な材料供給を目指しています。
里山からの恵みが、こんなところにもあったのですね。グローバル化する傘に対して、真逆の世界のお話でした。

ろくろの原料になるエゴノキ

※季刊誌「びお」より珠玉記事を再掲載しました。
(2017年夏号の記事を加筆修正)