まちの中の建築スケッチ
第68回
世田谷美術館
——緑の公園と建築——
美術館が緑の公園と空間的に一体化して設計されている例は少なくない。このシリーズで紹介した宮城県美術館や弘前市立博物館も気持ちの良い構成になっている。
たまたま今朝(6月24日)のNHKラジオ深夜便の「私の人生手帖」で、長谷川逸子(1941- )が「公共建築は第2の自然」という趣旨の設計理念を語っていたが、砧公園の中をしばらく歩いて世田谷美術館の建築が見えてくると、まさに第2の自然という言い方が抵抗なく受け入れられた。
複数の低層ブロックが渡り廊下で繋がっており、芝の広場を囲んでいたり、出入口の正面には、大きな欅が構えている。緩やかな孤の赤いドーム屋根、緑青色の軒下の壁パネル、そして壁面や柱面には正方形のコンクリート肌のタイルが貼られている。渡り廊下やパーゴラを支えるのは、逆三角形の柱で、かなりインパクトのある形状であるが、それぞれのブロックがおとなしい外観なので、空間にリズムを生み出している様に見える。背景には、清掃工場の煙突も見えるのであるが、これも、あまり違和感を覚えない。
これまでも、何度か展覧会に訪れてはいるが、改めて建築を見にやってきて、内井昭蔵(1933-2002)設計による外装の表現の優しさを感じた。近代建築というとコンクリートの打ち放しやガラスの壁面が思い浮かぶのであるが、コンクリート構造であっても表面が有機的な表情を持ち、また室内からは開放的に見えるガラス面も外観においては控え目である。これは、以前、内井昭蔵設計の石川県七尾美術館を訪れたときの印象と同じで、建築が強く主張するのでなく、自然になじんでそこに存在して、人を招き入れるものになっている。
超高層建築ですら新築のために簡単に壊されるということが繰り返されている今の日本の落ち着かない日常から、自然を感じられる建築の空間に身をおいて気持ちよい時間を過ごすことができるのは有難いことである。
東京都には、区立美術館ネットワークというのがあって、11の区立美術館が連携事業などもやっているようであるが、ロケーションや企画などもさまざまで、区民の恩恵にはかなり差がありそうである。例えば大田区の場合は龍子記念館が1991年から区の施設となっているが、住宅街にいきなり迫って建っている。道路を隔てて川端龍子の旧宅跡が龍子公園となっているが、しょせん住宅規模である。緑の公園と建築が一体的に計画されているわけでなく、建築に第2の自然を感ずることもない。また、目黒区美術館では、最近になって周辺の再開発の中で解体が議論され、親しまれている建築が存続の危機にある。美術館を区民に愛されるようにするのは、区民のかかわりが基本でもある。美術館建築を生かして周辺地区を重点緑化地域とするなどの新しいまちづくりができないものであろうか。
世田谷美術館を訪れると、逆に、他の都内の区立美術館は、どこもなかなか第2の自然とは言えないのでは、という感想をもってしまった。これからの公共建築が計画されたときには、地域の人たちが「第2の自然となっているか」という視点で検討して、設計に反映するとよい。