まちの中の建築スケッチ

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聖徳記念絵画館
——都市公園の建物——

昨年から、明治神宮外苑の再開発問題がホットな話題になっている。「目の前の経済的利益のために100年かけて守って来た樹々を犠牲にすべきでない」という、最近亡くなった坂本龍一の声も、公園のあり方を見直すきっかけになるとよいと思う。東京都心の緑の小さな面的なつながりは、明治神宮外苑に大変お世話になっている。それを他人事のようにして、東京都は東京オリンピックの新国立競技場を建設するために、地区の高さ制限を撤廃した。それと併行して、経済的利益のための施設の建て替えや超高層ビル計画が静かに進められている。
その中心に聖徳記念絵画館が建っている。なぜ「聖徳(せいとく)」の名を冠しているのかは知らない。英語では、わかりやすくMeiji Memorial Picture Gallery (明治記念絵画美術館)となっている。明治期の建物かと思ったら大正15年(1926年)竣工とある。コンペで当選した、国会議事堂と同じ官庁営繕の技官、小林正昭(1890-1980)の設計による。花崗岩貼りの外観や左右対称の平面計画は、確かに国会議事堂に似た雰囲気を感じさせる。銀杏並木の今後が心配されているが、その延長上の正面にあって、絵画館が外苑の公園計画と一体になっていることがよくわかる。
都営大江戸線の新国立競技場駅を地上に出ると、緑の森が目に入る。絵画館の裏手にあたる。広い駐車場を回り込んで、正面に出ると、木陰のベンチがあって、ゆっくりスケッチすることができた。絵画館の名前は、明治天皇に由来する絵画を集めて展示するということであったようだが、絵画制作には建物完成後10年を要したという。
公園としては、ラグビー場や野球場、テニスコートなどもあり、自然が多い公園というわけではないが、樹木は100年の時間を経て豊かな緑として空間を気持ちよい場所にしてくれている。絵画館回りは広場が巡っており、高さ30m幅100mを超える規模でも圧迫感を感じさせることなく、むしろ堂々とした感じで、広々とした解放感のある広場になっている。周辺の建物の高さ制限は、景観計画としてもとても重要だと思った。
3年ほど前に、大田区の仲間とともに、東京都の都市計画に対してコメントを提出し意見陳述を行った。都の中央広域拠点の誘導方向として、「経済成長をリードする」というような言葉があり、建蔽率緩和が示唆されているなど、大変に気になった。人口減少を見据えて、大規模再開発でなく、緑化推進やストック活用を基本とする都市計画にすべきであることを述べた。意見陳述では、また、他にも再開発見直しの意見は多く発せられたのであるが、全く反映されないままに、「東京都市計画 都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」は、都市計画審議会で決定されてしまった。まさに、その案じていた通りのことが、神宮外苑で起きている。
大田区でも、公園内の多くの樹木が伐採され、建物が建設されるという事態が、あちこちで起きている。都市公園のあり方を考えるときに、今こそ都市内にいかに自然を取り戻すかであり、あるいは歴史的な建物と調和した環境を維持できるかだということを強く感じた、夏の日のスケッチであった。