びおの珠玉記事
第179回
梨2題
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年08月18日の過去記事より再掲載)
梨が出回り始めたので、早速頂いてみました。
多くの果物が、ハウス栽培や輸入などで通年食べられますが、こと梨(和梨)に限っては、立秋の頃から出始めて、遅いものでも立冬の頃には見かけなくなります。まさに秋の味覚。
さて、今回頂いた梨(幸水)はしかし、甘味もなくて、少し残念な味わいでした。梨は90%近くが水分で、いわゆる栄養というのはそれほど多く含まれません。梨の魅力は、そのみずみずしさと、甘味の中にほんのり香る酸味です。
がしがしとしかも小梨の堅き哉 正岡子規
現在流通している梨の多くは、戦後になって普及した「幸水」「新水」「豊水」の「三水」と呼ばれる品種で、子規の頃とは梨の味も食感も変わっているのでしょう。
8月から出回る幸水は、梨の中でも甘い品種のはずですが、栽培方法や気象条件、そして鮮度によって、やっぱり味は変わってしまうのです。当たり前のことですが、初物食いと意気込んだだけに、少々残念でした。
食材の良さは、見て、触って、嗅いで、などいろいろな方法で確かめられます。梨だったら、たとえば扁平気味なものが甘い、だとか、手に持った時にずっしりした感じがあるほうがよい、だとか。
自分なりに、手にとってコレだ、というものを選びました(匂いは嗅ぎませんでしたが)。
梨は冷やしすぎてはいけないといいます。冷蔵庫にもいれず、買った翌日に氷水で冷やして食べました。
しかし結果は、前述のとおり。
ネタっぽいですが、実話です。
さて、せっかくの梨、どうして美味しくいただけなかったのでしょうか。
1.目利き
買ってきたのは近所のスーパーマーケット。お店で選び方を説明してくれる人はいません。前述のとおり、自分で選んではみたけれど、やっぱり目が利かなかったということか。
2.価格
実は、幸水は他にも販売されていました。そちらは値段が少々お高め。結局安い方を買ってしまいました。高い方なら大丈夫だったのか、わかりませんが。
3.保存
冷蔵庫に入れませんでしたが、室内に普通においておいたので、少し傷んだかもしれません。特に幸水は足が速いといわれます。
4.旬
幸水の旬は8月ごろ、とされていますが、もう少し後のほうが美味しかったのではないかな〜、という気がしました。和梨は追熟しませんので、採れたときの状態が重要。
自然ものには皆、旬があります。
梨が通年流通しないのは、冷凍保存に適さないこともあるでしょうけれど、冬に梨を食べたい人があまりいない(そこまでコストをかけてもあわない)、というのが正直なところではないでしょうか。
通年流通しているものでも、季節によって変化があります。牛乳などは顕著な例で、パッケージにも季節によって栄養がかなり変わることを明記しているものもあります。
自然の恵みによるその差をありがたく受け入れるのが旬の楽しみ方で、一方でその差異を人工的に緩和吸収していくのが、工業技術です。暮らしの多くは工業技術によって支えられているのは間違いないことで、これを否定することは出来ません。農作物の生産も流通も、工業技術がなければ成立しません。
それだけ均質なものが手に入る、均質で当たり前な時代だからこそ、季節によって揺らぐ微妙な味わいを楽しむ、ということに価値があるのではないでしょうか。そう考えれば、一回選びそこねたぐらい、楽しいものです。
さて、梨がらみで、ちょっと強引ではありますがもう1つ。
京都の梨木神社が、参道にマンションを建てる、ということで話題になりました(別に梨の木が神木だったりするわけではありませんから、単なる梨の字つながり、です)。
寄進だけでは神社の運営がままならないようで、本殿の改修費用を借地料収入に頼りたい考えです。梨木神社は京都御苑に隣接し、すぐ脇には迎賓館があります。そんなところにある神社だけに、この計画には反対意見も噴出し、神社本庁からも賛意が得られず、同庁を離脱して計画を進めた、という経緯があります。
「信長、秀吉、家康さえも頭が上がらなかった地」と来ますから、並みのマンションポエムではありません。
もっとも、神社境内にマンション、というのはこれが初めてのケースではありません。
東京・神楽坂には、隈研吾の監修による神社併設のマンションがあります。やはり、神社運営の費用捻出が目的とされています。
過去最高の空き家率を記録しながらも、神社の中に高級マンションが建つ時代です。