びおの珠玉記事

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蟄虫坏戸 小さな生き物から得るもの

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2012年09月28日の過去記事より再掲載)

蟻

蟄虫坏戸むしかくれてとをふさぐ、啓蟄の頃に土の上に出てきた虫が、冬籠りのために土に戻る、という候です。

蟄虫とは、昆虫に限らず、蛙や蜥蜴などの小動物全体を指した言葉です。

暖かくなったら活動を初めて、寒くなったら活動を止める。暖かく、食料が多いときにエネルギーを得て、食料が減る季節には、自分の代謝も落として少ないエネルギーで暮らそう、というスタイルです。

世界の昆虫の種類は80万種以上が確認され、日本には名前がついているものでも3万種あまり、未発見のものも含めればもっと多くの種がいるといわれています。

今夏に環境省から発表された第4次レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)では、ゲンゴロウが絶滅危惧II類に入って話題になりましたが、他にも多くの昆虫の絶滅が危惧されています。

レイチェル・カーソンは、農薬などの化学物質によって、自然界の虫がいなくなり、それを食べる鳥もいなくなり、虫の音や鳥の声などの生命の音が聞こえない春がやってくると警鐘をならしました。

化学物質に限らず、開発による環境の変化によっても種は滅んでいきます。

虫嫌いの人で、虫などいなくなればよい、という人もいますが、とんでもない。虫がいなくなったら、もちろん多くの鳥もいなくなり、一部の植物の受粉もままならなくなり、多くの生物が消えていってしまうでしょう。

人間も自然の一部。虫などの小さな生き物に学ぶことはたくさんあるはずです。

賢き虫に学ぶ

蟄虫に限らず、鳥類も哺乳類も、生活には自然のエネルギーしか用いていません。人に自然を破壊され、その多様性が脅かされながらも、それでも彼らは地球上のさまざまなところで生き抜いています。

少し、蟄虫に学んでみましょう。

アリ

蟻
働きアリは、いつも触覚をあちこちに巡らせながら、なんとなく、餌への近道を見つけていきます。アリはフェロモンを出し、それが他のアリの道標になっています。触覚でフェロモンを感じ取り、その道を辿ります。遠回りしたり、明後日の方向へ向かってしまうアリも中にはいるのですが、近道はアリが多く通るので、フェロモンも濃くなって、さらにそこが選ばれて皆が近道を通ります。アリは近道をしようと思っているわけではなく、フェロモンを辿っているだけであっても、結果的には群れは効率化して、最短で餌にたどり着けるようになる、というわけです。
カーナビだとか、スマートフォンだとか、そういうものがなくても、一番近い経路を通って目的にたどり着く。たまには迷子も出るけれど、全体では最適化された合理的なしくみです。

シロアリ

日本の住宅に被害をあたえるようなシロアリではなく、アフリカの、大きな蟻塚をつくるような種類のシロアリの巣は、上部に排気用の孔を持ち、重力換気によって巣の中の熱を排気します(ヒートチムニーですね)。地下から湿度の高い土を運び、気化熱で巣の中を冷却し、一定温度に保つ仕組みです。これを利用して、アフリカ・ジンバブエで冷暖房設備に頼らない建物が作られました。

カタツムリ(でんでんむし)

カタツムリ
(昆虫ではないですが、「蟄虫」の一種として)
カタツムリは陸生の貝です。呼吸は肺呼吸ですが、乾燥は苦手なので、体を粘液で覆っています。湿度が低い状態では、殻の中に閉じこもり、入り口に膜をはって乾燥を防ぎます。
殻には数十ナノメートルクラスの小さな凸凹が無数にあり、ここに水がたまり、汚れがつきににくくなっています。雨が降れば汚れは一緒に流されていきます。ここからヒントを得て開発された防汚技術も実用化されています。

サカダチゴミムシダマシ

砂漠に住む甲虫・サカダチゴミムシダマシは、霧が発生すると逆立ちし、背中の突起で霧の水分を吸着して水を飲む、という、水の少ないところならではの生態です。これにヒントを得た、生活水を確保するための容器も開発されています。

蚊
蚊に刺されてもすぐには気が付かず、かゆみで気がつくことがほとんどです。蚊にさされた瞬間は、なかなか気が付かず、その後に分泌される液がかゆみのもとになっています。刺した瞬間に気が付かれては、落ち着いて血も吸えない、ということでしょうか、蚊の針自体は無痛に近いものです。ノコギリ状の歯を細かく振動させて皮膚に穴を開け、針状の上唇を刺して血を吸います。このしくみを利用して、刺しても痛くない注射針の開発も進められています。

近年、こうしたバイオミミクリー(自然の摂理にかなった生物の形態を真似ること)がさかんになってきています。形態の模倣だけでなく、1日に100kmも飛ぶというスズメバチの栄養源である、幼虫から分泌される栄養液を参考に開発された健康飲料や、糞尿の多い堆肥内で暮らすタイワンカブトムシの幼虫からは、そうした環境に適合するための抗菌性タンパク質が発見されています。

人はこれまで、多くのエネルギーを使って、「力ずく」で、便利な世の中を謳歌してきました。しかし、これらの小さな生き物には、大きなエネルギーを使わなくても、環境にあわせて生きるさまざまな自然の叡智がつまっています。

人間に、今から自然にもどれと言われても、それはかなわないでしょう。でもせめて、こうした生き物から学べるものは学び、再生可能なエネルギーだけでやっていこう、というのが、人の叡智ではないでしょうか。

外部の環境が変わったら、それにあわせて備えをすればよい。家だって、高性能に出来ればよいけれど、そうでなくても、夏はすだれを掛けて薄着をすればいいし、冬の夜は厚手のカーテンや障子を閉じて、厚着をすればよい。寝てしまう、という手もあるけれど。

僕達も生き物のハシクレとして、自分の環境は、自分で出来る工夫で守ろう。

虫をいただく

さて、またちょっと違った視点での虫の話。

昆虫は、生物農薬や着色素材などにも用いられます。

しかし、もっとも身近なものといえば、昆虫食かもしれません。

イナゴやザザムシ、蜂の子などは古くから食べられてきた日本の伝統食でもあります。

いなご

いなご

昆虫は成長が早く、低脂肪でタンパク質を多く含む良質な栄養です。育てるのに必要な餌の量も、牛や豚などの哺乳類に比べると少なくてすみます。

…などと書いておりますが、やっぱり抵抗がある、人は少なくないでしょうね。

挑戦してみる方は、下記を参考に…。

昆虫食リンク

昆虫食彩館
http://insectcuisine.jp

昆虫料理研究家・内山昭一さん主宰の昆虫料理研究会のページ。
昆虫食の研究・普及に取り組んでいる研究会です。
虫が苦手な人は、【閲覧要注意】です。

昆虫の栄養や日本と世界の昆虫食について。
こちらはそれほど衝撃的な画像はありませんので、ご安心ください。