石村由起子さん(「くるみの木」オーナー)山﨑博司さん(現・ツキデ工務店)

暮らしを教えてくれたひと

住まいだけでなく、店舗、アトリエなど、そこで日々暮らす人たちの凝らす工夫は、住まいの設計をするうえで大きな手がかりになることがあります。愛媛県で建築設計を営む福岡美穂さんは、これまでに“暮らし”をテーマに活躍する達人たちの仕事から、設計の着想を得てきたと言います。このシリーズでは、福岡さんが“暮らしの達人”を訪ね、その根底にある考え方や信念をインタビューすることで、暮らしを設計するとは何か、考えるヒントを探しに出かけます。

Vol.3  これからの未来を見据えて
石村由起子さん(「くるみの木」主宰)

福岡美穂さんによる、石村由起子さんへのインタビュー第3話。つねにお客さんのことを第一に考える石村さん。インタビューには、「くるみの木」の初期から石村さんのお仕事をサポートされてきた、山﨑博司さん(現・ツキデ工務店)も同席。石村さんのお店づくりから自宅の設計についてまで、お話をうかがいました。

 

古いものを生かす空間づくり

福岡 「くるみの木」も「秋篠の森」も、徐々に増築されてきたと聞きました。

石村 私は、古いものに目がないというか、こうしたらもっとよくなるんじゃないかと考えて、古いものを生かすことが好きなんです。

福岡 その考え方は、おばあさんから受け継がれたのでしょうか。

石村 そうかもしれませんね。「くるみの木」の建物も最初は薄暗い倉庫のような建物だったんです。でも、ここに窓を開けて、ドアをつけて、テーブルを置いて…とか、お客さまが気持ちよくなるように空間をつくろうとその頃から常に考えてきましたね。お客さまが気持ちよくなるように空間をつくることは、店だけでなく、自分の家にも共通していると思います。

福岡 石村さんは、古い倉庫から「くるみの木」をリノベーションして、増築しながら古いものを活かす、という独自のスタイルを貫いていらっしゃいますが、それは過去にご自身が経験された空間をイメージされているのでしょうか。

くるみの木のショップと、カフェの待合室への入り口

くるみの木のショップと、カフェの待合室への入り口

石村 ずっとそんな空間に憧れていたんだと思います。住む場所は何度か変わっていて、奈良に住まいを移すことになった頃には、だんだんと無垢の木にこだわって自分らしい家をつくりたいと思っていました。

福岡 自然素材にこだわりを持たれているのですね。

山﨑 奈良のご自宅も石村さんなりに設計していましたね。

石村 お寺を建てているような工務店だったら、きっと古い建物の修復が得意なはずだから、そういうところに設計を頼めば、自分のイメージに合った家ができるかも、と山﨑さんが当時勤めていらっしゃった工務店へ連絡しました。

山﨑 当時の石村さんは、あらゆる雑誌の切り抜きを籠に溜めていましたね。

福岡 リサーチ力がすごいですね。

石村 その頃はね、いつか家を建てたいと夢見ていましたから。

一緒に仕事をした人もハッピーになる

福岡 石村さんと一緒にお仕事された時の印象はいかがですか?

山﨑 石村さんは会ったときからとにかく走り続けている人で、ほとんど休みがなく、まるで機関車のようです。つねに新しいことをやっている人で、知り合ったときよりから比べて、周りにいる人たちも重鎮に変わってきているように思います。

石村 これまでに関わって来た人もそれなりに齢を重ねてこられましたから。

福岡 みんなで影響し合いながら、ここまで来られたのですね。

石村 木工デザイナーの三谷龍二さんには、オープンして間もない頃に「くるみの木」の看板を作っていただきました。今でもその看板が店の入口でお客様を一番にお迎えし続けてくれています。

山﨑 石村さんは、忙しいけれどそういう人との出会いで充電しているのかもしれませんね。まるでタレントのように忙しい。人と会ったり、電車に乗ったりする時に休憩しているのでしょう。

山﨑博司さん(現・ツキデ工務店)福岡美穂

「くるみの木」や「秋篠の森」のメンテナンスを続ける山﨑さん(左)

福岡 山﨑さんに長年お仕事を依頼されている理由は何でしょうか。

山﨑 今はメンテナンスしかしていないですけど。

石村 まずは安心ですよね。それが一番大切ですね。あと人柄的にも笑いのツボが似ているのかもと思います(笑)。

山﨑 石村さんは、商人でいうと近江商人の三方よしを貫いている人。ある意味哲学者でもあると思います。

石村 一緒に仕事をした人とともに喜び合えれば、一番幸せですよね。

福岡 建築もそうですね。設計士も施工側も施主も。建築家の中村好文さんもおっしゃっていますが。

石村 一緒でしょうね。どんな職業でもきっと。

ゲストハウス「ノワラスール」

福岡さんが「秋篠の森」を訪ねて宿泊したゲストハウス「ノワラスール」の室内。
現在は休業中(写真=福岡美穂、2015年)

喜ばれる学び舎

福岡 最近では、「鹿の舟」という施設で「生活学校」という学びの場を立ち上げられたそうですね。それはなぜでしょうか。

石村 奈良ははじまりの地と言われますし、そんな場所でいろんなことを学んで帰っていただけるといいなって思って。

福岡 どんな方に伝えたいと?

石村 奈良に来られる皆さん、もちろん奈良にお住いの方も。若い人にもご年配の方にも。いっぱいワクワクして引き出しに入れて、それぞれの場所で心豊かに過ごしていただけたらうれしいです。生活学校は一泊二日の講座が多いのですが、毎回受講される方も増えてきています。遠方からわざわざ、生活学校を楽しみに奈良まで来られる方もいらっしゃるんです。だから、いっそう充実した時間を過ごしていただきたいという気持ちですね。

これまでの33年とこれからの夢

福岡 石村さんのこれからの夢は?

石村 これまで「くるみの木」で働いてくれたスタッフが、全国、いや世界中にいて、今でも手紙のやりとりしている人たちがいるんです。私がまだ若かった頃や、一番つらかったときを支えてくれ、一緒にがんばった思い出などがそれぞれにいっぱいあります。これから、彼女たちに会いに行きたいと思っています。そしてご家族にも会ってみたい。いろんな話をしたいですね。今のスタッフももちろん大事だけど、今まで働いてくれた人がいるから今日があると思っているので。

福岡  それは素敵な夢ですね。

奈良町南観光案内所「鹿の舟 Saezuri」

石村さんがプロデュースして居る奈良町南観光案内所「鹿の舟 Saezuri」の外観。
(写真=福岡美穂、2016年)

石村 店のことも、どうするのが最善なのかな……と、日々いろいろと考えています。私が作った33年、そしてこれからの33年…。

福岡 とても楽しみですね。私は「くるみの木」を訪ねたときから、石村さんが設計室をしたらどうだろうと考えて仕事をしてきたので、今日は本当にお話聞けて良かったです。

石村 こちらこそ、こうしてお会いできてとても嬉しかったです。ありがとうございました。

福岡 ありがとうございました。

 

>次回は最終回 福岡さんがインタビューをふりかえります。