日本とフランスそしてフィンランド、住まいのちがい
ところかわれば
| 森弘子
住んでいると見えてくる、それぞれの国の、それぞれの文化。
旅するのとはちがい、日々生活者として身をうずめると、食べるもの、着るもの、使うもの、一つひとつにその国の文化や気候、そして人々の感性が宿っていることに気づきます。
「住まい」は住む人の生活をつつむもの。その人自身、あるいはその人が生きる国や文化を、とてもよく表しているのではないでしょうか。
2018年2月、3年間暮らしたフィンランド・ヘルシンキから、フランス・パリに移住しました。ふだんは建築設計の仕事をしています。ここでは、建築設計にたずさわる者の視点から、日々の暮らしから工事現場の片隅にいたるまで、「ところかわれば」見えてくる、さまざまなちがいを紹介していきたいと思います。
手はじめに、身近な我が家(2人住まい)をとおして、日本とフランスそしてフィンランドの住まいのちがいから見ていきたいと思います。
我が家はパリのRiv gauche(リヴゴーシュ)というセーヌ川の左岸の、地元の人たちが日々を暮らす、観光客の少ない落ち着いたエリアにあります(右岸は観光地や若者が多く集います)。パリ中心部は、パリ大改造時に建設された19世紀後半のアパルトマンが多く、筆者のアパルトマンも1880年の建設です。
1. 靴をどこで脱ぐ?
日本人海外生活者の永遠のテーマといっても過言ではない、「靴」問題。ほとんどの日本人は玄関で靴を脱ぎます。日本の家にはたたきや土間があり、上がり框などによってはっきりとした境界線が引かれています。
では、フランスでは?
多くの方が想像されるように、フランスでは靴を履いたまま家の中でも生活します。したがって、玄関には靴をしまう十分なスペースがありません。
一方、同じヨーロッパでもフィンランドでは、靴を脱いで生活します。これは私が引っ越した家に最初に訪れた時、まず驚いたことです。日本のような段差はありませんが、比較的玄関が広く設けられ、靴棚に靴を置きます。これは訪れた他の北欧諸国(スウェーデン、ノルウェー)でも同様でした。おそらく長い冬に雪がついた靴で家を歩き回ると、雪が溶けて部屋が汚れてしまうからではないでしょうか。
2. 窓はどのように開け閉めする?
日本の住宅は多くの場合、引き違い窓が採用されます。一方、フランスで最も多い形式は、内開き窓です。いわゆる”フレンチバルコニー”というタイプ。バルコニーと名がつくものの、人が出るスペースはなく手すりがあるのみで、窓は手前(部屋内)に開きます。フィンランドの窓の特徴は、断熱性にすぐれる二重窓であること。ヘルシンキでは1月末頃数日間マイナス20度前後の日が続きます。
3. 窓からの虫の侵入をどう防ぐ?
日本の窓と常にセットの網戸。実はヨーロッパの住宅には、上の写真でお気付きかもしれませんが、網戸はほとんど見かけません。では、どのように虫の侵入をふせぐのか? 実は、気にせず開けはなちます。フランス同様、フィンランドのアパートにも網戸はありませんでした。ヨーロッパは日本を含むアジアと比べて虫が少ないように感じます。少ないうえ、かつ小さい!大きな虫はハエがごくたまに迷い込んでくるくらいで、小さいコバエのようなものがいる程度です。網戸がないぶん窓まわりは要素が少なくすっきりとした納まりになります。
4. 部屋の温度はどのように調整する?
日本とちがい、多くのフランスの住宅、特に古いアパルトマンには冷房設備がありません。やや冬が長いフランスは、4月中旬頃からようやく窓を開けることができるくらいすごしやすい陽気になります。また、日本と比べ秋が早くおとずれるため、9月頃はすでに涼しくなる日が多くなります。さらに、乾燥しているため、気温が高くても体感的には過ごしやすく、風がとおるように窓を開ければ、基本的には冷房設備は不要です。フィンランドはなおさら夏が短いのでもちろん不要なのですが、近年の温暖化に伴うためか、6〜7月に数日程度暑くて寝苦しい夜がありました。でも、その程度。
このようによく見ていくと、住まいのさまざまな場所や場面にあるちがい。日本とフランス、そして同じヨーロッパでもフランスとフィンランドとではちがいが見られます。一方で同じこともあります。もちろん例外もあるはずです。
ここではとり上げませんでしたが、「入浴」もその国・文化をとてもよく表しています。これは別の機会にくわしくお伝えしたいと思います。
ところかわれば見えてくる住まいのちがい。
さまざまなちがいを知れば、日々のくらしへの見方も変わってきませんか?