ル・コルビュジェの自邸
ところかわれば
| 森弘子
近代建築の巨匠ル・コルビュジェの作品は、パリではサヴォワ邸やラ・ロシュ=ジャンヌレ邸が訪れられるものとして有名ですが、実はコルビュジェの自邸も訪れることができることはあまり知られていません。
ル・コルビュジェの自邸は、パリ中心部から外れた、16区にあります。戸建てではなく、アパルトマンのペントハウス2層分がコルビュジェの自邸です。民間のプロモーターのために建てられたこのアパルトマン全体を当時44歳のコルビュジェが設計することになりますが、コルビュジェは最上階2階部分を自邸として使う交渉をし、建物の屋根部分の費用を自ら賄うことになりました。日本式でいう8階と9階で、これまでのオスマン様式とは一線を画したガラスファサードが斬新な設計でした。
目の前の敷地にはスタジアムがあり、ブーローニュの森や様々なスポーツ施設が配され、コルビュジェが目指した『輝ける都市』をパリながら実現できる絶好の立地でした。アパルトマンは東西に抜けており、東にはパリが、西にはブーローニュが見渡せる、まさに天空にいるような風景でした。
上下階合わせて240平米あるアパルトマンは、上階には屋上庭園と主にコルビュジェの母がパリを訪れたときに使うための客室があり、コルビュジェは下の階を使用していたそうです。下階にはヴォールト天井のコルビュジェのアトリエがあったが、主にはコルビュジェの絵画やデッサン、執筆活動など、本職である設計の仕事以外のことが行われていました。メゾネットの構成はコルビュジェ設計のマルセイユのユニテダビタシオンを思わせるようであり、リビングはカップマルタンの休憩小屋を思わせる客船の中にいるような雰囲気。
寝室には不思議なベッドがあります。これはコルビュジェが、手すりをこえて寝ながらにして目の前に広がるブーローニュの風景を楽しめるようにと考えたもの。実際にどのように使っていたのか、寝心地は良かったのか知りたいところです⋅⋅⋅。
当時としては画期的だった常時温水が出る水回り、エレベーター、セントラルヒーティングなど、都市型住宅の機能性が詰まったアパルトマンで、見学できるアトリエには当時の不動産の資料も見ることができます。
コルビュジェはここからメトロ10番線、晩年はタクシーでパリ7区のオフィスに通っていたそうです。当時からはパリやブーローニュなどの雰囲気も変わりましたが、このアパルトマンは日本式でいう8,9階に位置するため、階下の車の騒音なども気にならず、当時のコルビュジェの生活を想像することができます。
ル・コルビュジェ アパルトマン-アトリエ
Appartement-atelier de Le Corbusier
24 rue Nungesser-et-Coli, 75016 Paris
メトロ 9番線 Michel-Ange Molitor駅 または10番線 Porte d’Auteuil駅
https://www.fondationlecorbusier.fr/visite/appartement-le-corbusier-paris/