「ていねいな暮らし」カタログ
第1回
尾道で考えるようになった
「暮らし」のこと
こんにちは。「ていねいな暮らし」カタログという連載を担当することになった阿部純です。私は東京の町田市出身で大学院まで東京にいましたが、2012年から現職に就くこととなり、今は広島県尾道市に住んでいます。
尾道と聞くとどのような印象をもたれるでしょうか。映画の街、文学の街、坂の街。最近ですと、空き家再生の盛んな街や猫の街、あるいは、瀬戸内の凪いだ海のイメージとあいまって暮らしやすそうな街、という印象もあるかもしれません。
私が尾道に越してきた2012年は、東日本から避難してくる人々もおり、今もなお新しい移住(希望)者と会う機会は少なくありません。尾道はもともと海の街ということもあり、よそ者を受け入れることに寛容な街だと思いますが、それだけでなく、NPO法人尾道空き家再生プロジェクト1の取り組みから、「空き家に住む」という、一見すると物騒な言葉が日常で使われるくらいに、家を直しながら暮らすDIY2の風潮が浸透していることも、住む街として選択される理由かもしれません。
尾道に住み始めてから、昨今よく聞かれるようになった「ていねいな暮らし」という言葉に興味をもつようになりました。街に出て、尾道出身の方や移住されてきた方と話をするなかで、時間がかかってでも自前で家を直しながら住むことが当然のことのように行われていることを知り、これは声を大にして言いたいくらいに驚いたことでした。そうした他の移住者との交流を通して、私自身も尾道という「場所」とどう暮らしていくか、ということをふつふつと考えるようになりました。
一方で、メディアで喧伝される「ていねいな暮らし」は、「暮らしをつくる」という点が美化され過ぎている気がし、違和感を抱くようになったのも事実です。この違和感は具体的に何によるものなのか、「ていねい」に暮らすとはどのような状態を指すのか、そしてなぜ今「暮らし」ぶりに注目が集まっている(ように見える)のか。
この連載では、古今東西の衣食住にまつわる雑誌を毎回一つずつ取り上げ、その中で「暮らし」がどのように描かれてきたかを追うことによって、昨今の「ていねいな暮らし」に連なる視点に迫ってみたいと考えています。
(1) NPO法人尾道空き家再生プロジェクト http://www.onomichisaisei.com/
(2) DIY=”Do It Yourself”の略語で、自分のいる環境をよくするために、自身で物をつくったり、修繕したりすること。