「ていねいな暮らし」カタログ

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ローカルメディアの「暮らし」語り

前回は、私が「ていねいな暮らし」という言葉に興味をもつようになったいきさつについて書きました。続いて、私が「ていねいな暮らし」のイメージに興味をもつきっかけとなったローカルメディアについてお話したいと思います。ここで取り上げるものは、ローカルメディアの中でも、特に私自身が地域文化誌と呼んでいる自分たちの暮らしについて書いた紙冊子についてです。

地域文化誌は地元の方が発行する紙もので、サイズや刊行頻度もさまざまあり、行政が支援しているものもありますし、完全に個人で発行しているものもあります。地元に住む人ならではの視点で、その土地に伝わる料理や祭、小商いの様子を取材し、編集し、印刷し、発行するという一連の作業が行われます。特筆すべきは、このような地域文化誌がいまや全国各地で発行されているということです。このことを実感する機会として、2014年3月に渋谷のヒカリエで「文化誌が街の意識を変える展」(企画D&DEPARTMENT PROJECT)が開催されました1。本展では47都道府県それぞれから地域文化誌が1冊ずつ選ばれ、福岡県北九州市で刊行されている『雲のうえ』を筆頭に、三重県津市にて一人で取材や編集を行なっている『kalas』や、富山県にUターンした女性たちで作っている文芸誌顔負けのボリュームのある冊子『itona』などが並び、紙もの好きにはたまらない展示場所となっていました。

かくいう私も尾道に住む人たちと一緒に『AIR zine』という紙冊子を作っている。折り込みレシピ入り。

2014年以降、このような地域文化誌をはじめとするローカルメディアに注目が集まり、それぞれを取材したカタログ本も複数刊行されています2。そこで紹介されている地域文化誌の創刊の言葉を見ると、「ふだん」「ふつう」「当たり前」を見直すという言葉が並んでいることに気づきます。無名の物や人の写真がメインで使われることやパーソナルな物語に焦点が当てられること、そして余白の多いミニマルなレイアウトなど、初期の雑誌『Ku:nel』を彷彿とさせるつくりとなっていることも地域文化誌の特徴です。尾道の街に住んでいて毎度悩まされるのは、湿気や虫、小さな獣の対策だったりしますし、大型複合ショッピングモールなどのロードサイド店舗にもお世話になっていますが、そういった「日常」が紹介されることは少ないように感じます。

みなさんの住む街でも地域文化誌が発行されているかもしれません。そこには、どのような「暮らし」がピックアップされているでしょうか。

 

(1) 「文化誌が街の意識を変える展」
http://www.hikarie8.com/d47museum/2014/03/post-14.shtml
(2) 参考にしているのは次の書物です
・影山裕樹(2016)『ローカルメディアのつくりかた:人と地域をつなぐ編集・デザイン・流通』、学芸出版社
・PIE BOOKS (2016)『ご当地発のリトルプレス』、パイインターナショナル
・齋藤あきこ編(2014)『地域の魅力を伝えるデザイン―Design for local paper media in Japan』、ビー・エヌ・エヌ新社

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。広島経済大学メディアビジネス学部メディアビジネス学科准教授。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。