“Families” on the move
移動する「家族」の暮らし方

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日本の「お母さん」
ネパールから来たビサールさんの物語(2)

ビサールさんは、ネパールにいる家族のことも大切にしている。一生懸命働いて、自分たちのことだけを考えるのではなく、家族にもできるかぎりのことをしたいと考えている。ネパールの両親を、日本に招待したこともある。その時には、のりこさんの家に集まってみんなで一緒に食事をして、両親は和服を試着させてもらい、特別なひとときを過ごした。両親は、ビサールさんにとっての日本での「お母さん」に会うことができて、感激していた。この「お母さん」がいるからこそ、ビサールさんは見知らぬ土地で商売を軌道に乗せ、結婚して子どもが生まれてからも安心して暮らしているのだと、両親にも伝わったようだ。父は 「お前はすごいな。日本の人とここまで親しくなってちゃんとコミュニケーションとれるようになって」とビサールさんに言い、ネパールに帰った。

インドネパール料理店

店で働いている時のビサールさん(2014年撮影)

著者について

大橋香奈

大橋香奈おおはし・かな
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 後期博士課程在籍。女子美術大学非常勤講師。
1981年藤沢市生まれ。大学卒業後、メーカー勤務を経て、フィンランドで3年近く暮らす。国内外で20回の引っ越しを経験し、「移住」の経験と「家族」のあり方に興味を持つように。現在は、国境を越えて移住した人びとが、どのように母国(あるいは他国)にいる「家族」とのつながりを維持しているのか、映像を用いて調査研究を進めている。

連載について

大橋さんは、『移動する「家族」』をテーマとする研究者。「家族」のあり方が時代とともに変化し、私たちの生活は「移動」なくしては語れないものとなり、住まいのあり方自体も問い直される時にあります。大橋さんがテーマとする「移動」も「家族」も、これからの住まいを考えるうえで欠かせないものです。今を生きる私たちにとって、誰とどんなコミュニケーションをとりながら「家族」という関係を築き、どんな住まいで暮らすことが理想でしょうか。この連載では、その答えが一つではなく一人ひとり異なることを教えてくれます。