流しの洋裁人の旅日記

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服は何からできている?(1)

大正紡績さんでは、兵庫県西脇市でワタを育てている「365cotton3」さんが摘み取ったわた綿繰わたくしました。綿繰りとは棉の塊の中にある種子から木綿繊維もめんせんいをひきはがす作業のことです。

棉には緑色をしたものや茶色をしたものもあります。じつはこれらがワタの原種です。世界の各地でヒトと五千年以上も付き合いのあるワタなので、突然変異や他の種などと交配させる、気候に合わせるなどして繊維長の長短や嵩高いものなど現在では数百種類のものがあります。
写真右の茶色のコロっとしているものは和綿わめんと呼ばれるもので主にアジアで栽培されています。繊維長が短く種から繊維を絡め取りづらいので、ひきはがす作業は難航しました。

※綿繰り機の動きについての動画は以下より参照ください。
https://youtu.be/Lhp_PWNdYKU

7時間ほどかけて約20kgの綿わたを取り出すことができました。重量的に1/3くらいになっていたのではないでしょうか。ちなみにこの綿繰り機は、綿繰りの工程や技術ともども海外に移転してしまっていたものを(現在日本で綿をほぼ輸入しているため)、海外から買い戻したもののようです。

さて、このあとこの綿わたが綿糸になるまでに辿るのが「紡績」という工程です。紡績では、

  1.  繊維をほぐす
  2.  繊維の方向を揃える
  3.  繊維束を引き伸ばす
  4.  繊維に撚りをかける

の主に4つの工程を辿ります。来号でこのあたりをご紹介します。

(3)365cotton(サブロクコットン)
日本有数のシャツ生地の生産地である兵庫県の西脇市で行われている365cottonというプロジェクトにより、西脇市の住民や服が好きで原料に行き着いた人、現代の食べ物や着る物に疑問を抱いて原点を見て体験しようと思った人々が集まり、ワタの種撒きから収穫、紡績、製織、商品化に繋げているプロジェクト
http://365cotton.wixsite.com/365c/about

参考文献
『三訂版 繊維』、石川欣造監修、学校法人東京電機大学発行、1998
『そだててあそぼうワタの絵本』、日比暉編、社団法人農山漁村文化協会発行、1998
『もめんのおいたち』、財団法人日本綿業振興会発行、1976.4.20
『はじめての綿づくり』、大野泰雄編、株式会社木魂社発行、1988.3.10
『ワタが世界を変える 衣の自給について考えよう』、田畑健著、株式会社地湧社発行 2015.10.20発行
http://www.cotton.or.jp/
http://www.marusyosangyo.jp/kawariito/cotton.htm

著者について

原田陽子

原田陽子はらだ・ようこ
1984年晴れの国岡山生まれ。武庫川女子大学生活環境学科卒業後、岐阜のアパレルメーカーへ営業として就職。「服は機械で自動生産されると思っていた」を耳にしたことをきっかけに、全国各地へミシンや裁縫道具を持参し、その場にいる人を巻き込みながら洋裁の光景をつくる活動を、2014年9月から開始。現在、計40カ所を巡る。洋裁という行為を媒介に、人や場、文化の廻船的役割を担うことを目指している。

連載について

ある日、東京・新宿にある百貨店で買い物をしていたところ、見慣れない光景が目に飛び込んできました。色とりどりの生地がかかるディスプレイの奥で、ミシンにひたすら向かう人がいました。売り場に特設されたブースには、ミシン一台と「流しの洋裁人」と大きく張り出された布の垂れ幕がかかっていました。聞けば、全国各地に赴き、その土地でつくられた生地を用いて即席でパジャマのようなふだん着を製作する活動をしているのだとか。食事については、ずいぶんと生産地や生産者を気にするようになりましたが、衣服のことはまだまだ流行や価格に目を奪われてしまいます。原田さんの全国を股に掛ける活動記録から、衣服に対する見方が少しずつ変わるかもしれません。