F・LL・ライトに学ぶ
ヴィンテージな家づくり
第5回
ローコスト住宅への挑戦
Jacobs邸/ユーソニアンハウスNo.1(1937)

「ユーソニア(Usonia)」とはアメリカ合衆国を指す造語です。ライトはヨーロッパのまねではなく、アメリカ大陸の環境に順応し、アメリカ人の生活にふさわしい快適で経済的な住宅の開発にかねてから熱心でした。世界大恐慌や個人的スキャンダルで仕事を失っていた時期も、架空プロジェクトとして新しい工法の開発に取り組んでいました。そんな時に若い新聞記者Jacobs氏がライトにローコスト住宅を依頼してきたのです。ライトは精力的にこの小住宅に取り組みました。少ない予算に対応するため簡略化された構法を開発し、ローコストとハイクオリティの両立を実現したのです。
ライトの提案は、
- 勾配屋根と小屋裏をやめ陸屋根にする。樋はなし。
- 囲いのあるガレージはやめ、屋根のあるカーポートとする。
- ボイラー室以外地下室は造らない。
- 床暖房配管を埋め込んだ床スラブコンクリートに壁や窓をパネル化し現場で立て込む
など、工法も画期的なものでした。

ライトの住宅には必ず暖炉がある。ライトに学んだ恩師遠藤楽さんは、
暖炉は僕の方がうまいよと自慢していた。

基礎断面図。この新しい構法の小住宅のために250枚もの図面が描かれたそうだ。後にスタンダードディテールとして整理され、ユーソニアンハウスは、A0版7,8枚程度で建設できるようになった。
Jacobs邸は、札幌とほぼ同じ緯度にあります。冬は地面が凍り霜で基礎が持ち上げられないように基礎を凍結深度以下に深くする必要があり、この地域では地下室として利用することが多いようです。ライトは基礎の下に排水パイプを埋め込んで凍結による被害を防ぎました。お金のかかる深基礎と地下室を廃止し、快適な暖房方法と大幅なコストダウンの両立を実現したのです。
ライトはこの構法の大いなる可能性を示すため、この家に“アメリカの家第1号”と名付けました。
- 壁は、ドアと同じ厚さ。壁は防水紙を挟んで板をパネル化し、コンクリート床の目地に合わせて建て起こす。気密性の高い壁が一気に仕上がる。
- この住宅ができあがると見学者が殺到したためJacobs氏は、見学者から入場料をとることにした。写真は、Jacobs氏自らサインした張り紙。入場料でライトに支払った設計料がまかなえたとのことである。(出典:BUILDING WITH FRANK LLOYD WRIGHT by HERBERT JACOBS)