まちづくりで住宅を選ぶ

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なぜ、スイーツ店は個店の方が優れているのか

AgitÁgueda

じつは、単にケーキ屋の数だけみると、自由が丘と二子玉川はほぼ同じです。両駅から800メートル圏内にあるケーキ屋の数は2018年2月時点で、自由が丘46軒、二子玉川49軒。この数字だけをみると、ともに拮抗しているという印象を受けるかもしれません。しかし、中身をみるとその差は大きい。まず、質が違う。例えば、食べログの評価点といった指標でみても、自由が丘には2017年の百名店1が3店あるだけでなく、3.5点以上のお店が16軒もあります(これは、全体の35%にも相当します)。二子玉川には百名店はゼロ店で、3.5点以上のお店でもわずか5軒。しかも、この5軒のうちチェーン店ではないお店は1軒だけです。つまり、二子玉川までわざわざスイーツを食べにいかなくてはいけないお店は1軒ぐらいしかないということです。

服部圭郎まちづくりで住宅を選ぶ第4話自由が丘 ケーキ屋エムコイデ(m.koide) 東京都世田谷区奥沢6-32-9 ローズコート自由が丘 1F

自由が丘で最も美味しいスイーツ屋との評判もあるエムコイデ。こぢんまりとしたお店がどんなデパートのお店でも適わないケーキをつくるのだ。

自由が丘の凄いところは、単にお店が多いというだけではなく、そこで新しい商品を創造することができている点です。なぜ、このようなクリエイティビティが街にあるのか。前述した『自由が丘スイーツ物語:ケーキで人を幸せにする街』で、著者はその秘密を地元の古本屋さんに尋ねているのですが、この彼の回答が非常に的を射ていると私は思うので、ここに紹介させてもらいます。

「それと、自由が丘には大資本の企業や商業施設がないんです。スイーツ店にしろ、洋服やにしろ、自然のバランスで成り立っているんです。大資本は地主でした。だから魅力ある街になっているんだと思います」(p.219)。

スイーツのようにデリケートでつくるのに繊細な神経が必要で、大量生産が向いてなく、しかも材料が傷みやすいものは、チェーン店や企業的なアプローチではなかなか質の高いものがつくれず、個店に勝算が見出せる商品なのです。大資本の企業や商業施設がない自由が丘はスイーツという分野においては個店が勝負できる街なのです。

このようにスイーツ好きは、街をしっかりと選ばないと美味しいスイーツに巡り会えないということが分かっていただけたかと思います。次回は、このスイーツと似たような他の商品を幾つか紹介します。

(1)食べログ百名店は、ユーザーの口コミ・評価を基に、一年に一度ジャンル別のランキングTOP100店舗を選出し、発表している。

著者について

服部圭郎

服部圭郎はっとり・けいろう
龍谷大学政策学部教授
1963年東京都生まれ。東京大学工学部卒業、カリフォルニア大学環境デザイン学部で修士号取得。某民間シンクタンク勤務、明治学院大学経済学部教授を経て、現職。 専門は都市計画、地域研究、コミュニティ・デザイン、フィールドスタディ。 主な著書に『若者のためのまちづくり』『人間都市クリチバ』『衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり』『ドイツ・縮小時代の都市デザイン』など。技術士(都市・地方計画)、博士(総合政策学)。