まちの中の建築スケッチ

15

鶴岡八幡宮
——鎌倉のまちの原点

東京に居ると、鎌倉は小学生のころから何度も訪れたし、高校・大学になっても江の島近辺で海水浴などの思い出がある。大学の恩師が鎌倉在だったこともあり、学生3人で訪ねたりもしているし、子供たちを連れて朝比奈切通しからハイキングをしたこともある。行ってみたい魅力はあっても、最近はなかなか行けないでいた。
鎌倉芸術祭の一環で、チェロと筝、尺八の「和と洋の融合」コンサートが、鎌倉能舞台で開催されるというので、おそらくは3,40年ぶりの訪問となった。おまけに、伝統木造の住宅設計を手掛けている松井郁夫氏が民家の改修が完成したというので、その見学も盛り込んだ。

築160年という2階建て山裾の民家を、高級民泊に改修したもので、昭和初期に建てられたという蔵も一体に2寝室の宿と、レストラン。天井は曲がり梁が決まっている。年明けにオープンということで裏山を借景にした庭の工事が忙しそうであった。
おしゃれな近代住宅も多い鎌倉に古民家も混在するのが良い。鶴岡八幡宮に参拝した。由比ヶ浜からの直線の参道は、若宮大路である。鎌倉彫の店やカフェ・レストランなどが軒を連ねている。そのまま浜から数えて3基目の鳥居をくぐると太鼓橋。左手が源平池。少し奥には、県立近代美術館も見える。両側の深い緑、幅広い参道が気持ち良い。正面には、静御前の舞った舞殿、その奥に八幡宮の本殿が山を背景に見える。なかなかの景観である。大木の多い造園も行き届いている。
ただ、両側にある出店が少々興ざめというかアジアっぽいというか、さみしい。ビニールで覆った仮設の店で、「ぎんなん」とか「一筆書」とか「いちご飴」など色とりどりに飾っている。せめて葭簀(よしず)で覆ってやれば雰囲気もでるか、などと思ったりもした。しばらく眺めてから、奥行きのあるスケール感をスケッチに納めた。

まちの中の建築スケッチ 鶴岡八幡宮

舞殿は、朱塗りで美しい。階段左手の実朝暗殺の舞台となった樹齢1000年と言われる大銀杏は、8年前の冬の強風で倒れてしまったとあり、高さ4mくらいのところで伐られていた。「頑張れ大銀杏」の看板もあった。
八幡宮に参拝のあと、由比ヶ浜から片瀬江の島まで海岸沿いをドライブし、昼食を腰越漁港にある釣り船店で。けっこう大きな漁港であった。冬でもサーファたちが大勢来ている。江の島の背景に、青空ではあったが、富士には雲がかかっていて裾野しか見えず、想像で眺めた。

鎌倉能舞台は、長谷にある。住宅街を少し登ったところで、緑深く、まだ昼過ぎでも急に冷気を感じた。150人ほどの聴衆の待つ能舞台にチェロを中心に尺八と筝が並べられた。アベマリアや小学唱歌、世界の民謡など哀愁を帯びたトリオが心に響いた。尺八と筝の「春の海」も良かった。また近々に訪れたい、いろいろな表情をもつ鎌倉である。

著者について

神田順

神田順かんだじゅん
1947年岐阜県生まれ。東京大学建築学科大学院修士修了。エディンバラ大学PhD取得。竹中工務店にて構造設計の実務経験の後、1980年より東京大学工学部助教授のち教授。1999年より新領域創成科学研究科社会文化環境学教授。2012年より日本大学理工学部建築学科教授。著書に『安全な建物とは何か』(技術評論社)、『建築構造計画概論』(共立出版)など。