まちの中の建築スケッチ

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南部曲り家
——岩手県の風景

馬との共生が、住まいの形を決めるというのも面白い。L型プランで、茅葺。岐阜の白川郷は、昔の村のままに残っているのだと思うが、遠野では、千葉家が有名。しかしながら今は、10年計画の保存修復中で、ときどき見学会をやっているようだが、あいにく本日は工事中で立ち入り禁止。やむなく、遠野ふるさと村を訪ねた。

まちの中の建築スケッチ 南部曲り家

遠野には、震災以来、何度も訪ねているが、釜石に向かう途中ということが多く、一応、柳田國男の記念館は訪れているものの、まだ曲り家を一軒も見ていなかった。ふるさと村には、6軒もの曲り家がある。規模は、千葉家には及ばないが、L字の凹んだところが土間の入口、中のかまどには、薪が焚かれていて室内が煙でいぶされている。西北にあたる左手が馬屋。実際に馬がいて藁をはんでいる。
右手は人間用の空間で黒光りした板の間と畳の間が南に面している。障子の外に廊下が回っている。基本的に平屋だが、45度勾配だと、かなりの高さにもなっている。茅の厚みもかなりあるので、その分、軒が出ていることになる。そしてなにより、茅のつくる曲面が美しい。北面には雪が残っているが、他の面は消えていた。
何日か前に降った雪は、地面や凍った池を白く覆っているが、木立の中の枯葉や枯れ草は、空気層があって温かいのか雪がない。背景の木立も緑は深く、広葉樹は枝ばかりで、冬景色が心地良い。十分にゆったりと配置されていることもあり、少し離れて眺めると、おそらくは、江戸時代も明治も同じような景観だったのであろうと思った。
刈り取られた田んぼや遠景には森も見える。別棟のトイレや蔵は、新しいが、だいたいが江戸時代から明治に建てられたもの。遠野の、南部藩のさまざまな部落から移築されたもの。
昼に、ビジターセンターのレストランで、ひっつみ定食を食べた。ボリューム満点で、腹一杯、ご飯を少し残した。夏であれば、曲り家の座敷で、昼寝でもできたろう。次回来るときは、木工や陶芸あるいは、馬そりに乗せてもらったりとか、いろいろ体験も楽しんでみたいものだ。

著者について

神田順

神田順かんだじゅん
1947年岐阜県生まれ。東京大学建築学科大学院修士修了。エディンバラ大学PhD取得。竹中工務店にて構造設計の実務経験の後、1980年より東京大学工学部助教授のち教授。1999年より新領域創成科学研究科社会文化環境学教授。2012年より日本大学理工学部建築学科教授。著書に『安全な建物とは何か』(技術評論社)、『建築構造計画概論』(共立出版)など。