びおの珠玉記事
第38回
海の魚・ワカサギ
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年02月14日の過去記事より再掲載)
もともとは海水の魚
小寒の末候、「雉始雊(きじ はじめてなく)」です。
まだまだ寒さが身にしみる季節。
でも早くも約1ヶ月後には暦の上では春。立春の魚上氷(うおこおりをいずる)になります。割れた氷の間から魚が飛び出る頃、とされています。氷の下にいる魚というと、ワカサギのイメージが強いですね。
わかさぎに ほのめく梅の 匂かな 久保田万太郎
ワカサギは、「鰙」という字のほかに、「公魚」とも書きます。
霞ヶ浦のワカサギを徳川家に献上していたことから、「公儀御用魚」が「公魚」となったという説があります。
ワカサギは、アユと同じように、卵は淡水で孵化し、成長期に海に降り、また産卵に淡水に戻ってくるタイプの魚です。霞ヶ浦は、かつては潮入りの湖だったため、ワカサギの生息に適した場所だったのです。
「公魚」になるほどですから、商品性も高い、ということか、霞ヶ浦のワカサギは、日本各地に移入されていきます。
このときに、なんと、海水で暮らす魚を淡水の湖に移入する、ということが行われました。
ワカサギは、その華奢なイメージとは裏腹に、かなり水質に対する適応力があります。淡水だけでも生きていけたのです。
現在、ワカサギの名産地になっている長野県の諏訪湖には、100年前の1915年に霞ヶ浦から移入されました。
霞ヶ浦は、その後に水門が設置され、淡水化しましたが、いまもワカサギが生息しています。本家の「公魚」も、淡水魚になってしまいました。
国内移入種
国外からの外来種、たとえばブラックバスやブルーギルといった魚が生態系を乱している、という話は誰もが聞いたことがあるでしょう。これらは「特定外来生物」として法で指定され、飼育や運搬などが禁じられています。
ワカサギは国内にいた魚ですから、外来種ではありません。けれど、もともと生息するはずのない淡水湖に放流する、というのは、その場所の生態系を乱すという点においてなんら変わりはありません。
ワカサギの各地への移入は、1910年代ごろから始まりました。国内だけでなく、中国や韓国、アメリカにも移入されています。ワカサギは体の割に口が大きい魚で、プランクトンを大量に捕食します。このため、エビの幼生なども食べられてしまいます。ワカサギは、ある時期は確実に、生態系を乱す移入種であったはずです。
けれど、ブラックバス(オオクチバス)が国内の淡水湖に放流されるようになると、今度はワカサギが食べられるようになってしまいます。
ワカサギが内陸部に移入されてから100年程度。ブラックバスの国内放流がはじまったのが90年前ですから、両者が湖に広がった歴史には、それほど大きな差はありません。
ブラックバスは、釣り上げて駆除しよう、という動きもありますが、ワカサギは漁業資源として、駆除どころか大切に保護されています。バスとワカサギは、生態系を乱すという点では共通であったのに、人の欲望への関わり方が違ったことから、ずいぶんと違う道を辿ることになりました。
ワカサギはキュウリウオ目キュウリウオ科の魚です。これにそっくりな仲間で、チカという魚がいます。
見分け方は、背びれと腹びれの位置の違いなどいくつかありますが、知らないと区別がつかないくらい似ています。
ワカサギとして流通するケースもあるようです。そして、チカはワカサギより安い。つまり、ワカサギの偽物として利用されてしまうというわけです。
こんな具合に、ワカサギはずいぶんと人に翻弄されてきた生き物です。植物は、人に栽培されることで生息域を広げてきた、という話もあります。
ワカサギはうまい。ワカサギ釣りはたのしい。
まさか。ワカサギがそれを狙ったのでしょうか。
氷上穴釣り写真
ソース
(c)Norisa1
Creative Commons 表示- 2.0