びおの珠玉記事
第39回
最低気温の日
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2012年01月25日の過去記事より再掲載)
大寒の次候、「水沢腹堅(さわみずこおりつめる)」です。
流れる水も凍る寒さ、という頃です。
1902年の1月25日は、アメダス観測史上でもっとも低い温度、マイナス41℃が北海道旭川市で記録された日です。
この日は日本に記録的な寒波が訪れました。
八甲田山遭難事件の「天は我らを見放した」という、隊の絶望を表現する有名な場面も、同じ日の出来事でした。
いまでも、年間最低気温を記録するのはこの頃が多く、1年で一番寒い日、と呼んでもいいかもしれません。
マイナス4℃を下回ると、水道管の凍結が起こり始めます。
マイナス10℃以下になると、ビールが凍ります。
マイナス15℃を下回ると、ダイヤモンドダストが始まります。
マイナス20℃以下になると、顔を出して歩けなくなります。
マイナス25℃以下になると、生きた木が立ったまま凍って裂ける「凍裂」が起こります。
そして、マイナス40℃以下になると、鳥が凍死して落ちてくるといわれています。
(なお、世界の最低気温記録は、南極・ボストーク基地で記録されたマイナス89.2℃です。)
もともと地球は冷えていた?
実はマイナス41℃というのは、太陽系の星としてみたら、決して低い温度ではありません。
月の最低温度(大気がないので、表面温度)はマイナス170℃、火星はマイナス140℃、海王星ではマイナス218℃といわれています。
(逆に月や火星の昼間・最高気温は太陽熱で、灼熱になります。)
地球には大気や水があります。太陽から受けた熱や、火山活動による熱などを、大気や水が吸収し、(他の星に比べて)均質化することで、私たちが生活できる程度の気温が得られているのです。地球が奇跡の惑星といわれる所以です。
過去の地球では、氷河期がたびたび訪れ、最後の氷河期といわれるものが1万年ほど前に終わり、現在に至っています。
比較的暖かくなった最近の地球では、海流が低緯度の地域から高緯度の地域に熱を運んでいます。これにより、南極・北極の極地も、寒いとはいえ現在の程度の温度に「暖められて」います。
仮に、地球温暖化により極地の氷が溶けて大量に海に流れこむことがあると、海水の比重が変わってしまい、海流が弱くなることで、極地を暖める機能が弱まって氷河期を招くという説もあります。
「気候変動」がなぜ起こるのか、どんなことに影響があるのか、そしてもし大きな気候変動が止められないのだとしたらどうすればいいのか。
「最低気温の日」だからこそ、もし、もっと寒くなってしまったらどうするか、考えてみてもいいのかもしれません。
氷
「氷点下」という言葉があります。氷点とは、水の凝固点・氷ができる、摂氏0度を指します。
静止した水は0℃で凍りますが、流れている水はなかなか凍りません。それでも0℃以下の気温が続くと、外気に触れている表面から凍りはじめ、氷点下が長く続けば氷の厚さが増していきます。
「水沢腹堅(さわみずこおりつめる)」は、それだけ寒い日が続く、ということを表した風情のある言葉です。
北海道では、流氷を見ることが出来ます。海水は、純水と比べて塩分が高く、凝固点が低く凍りにくいのですが、オホーツク海には、塩分濃度の薄い層があり、この層が冷やされ凍結したものが、北海道沖に流れてくるのが流氷です。
オホーツク海は、北半球では最も南で流氷が見られる海です。塩分濃度の低い上層と、下層の海水間の対流が少ないため、上層の温度が外気の影響を受けやすく、凍結しやすいのです。流氷のメカニズムは、海水の温度や塩分濃度、海流、気温の関係を端的にあらわしています。
燃える氷?
原発事故以来、次世代のエネルギーは何か、ということが多く語られるようになりました。
この中の一つに、「メタンハイドレート」があります。
メタンは可燃性のガスで、天然ガスの主成分としても知られるものです。ハイドレート(hydrate)とは、水化物、水和物などと訳され、水分子がメタン分子を囲むように、かご構造を作ります。
人工化でつくられたメタンハイドレートは、白い結晶状で氷のようにも見えることから、「燃える氷」とも呼ばれています。
メタンハイドレートは、常温・常圧下では存在できません。1気圧下ではマイナス80℃以下でないと存在できないのです。極地ならともかく、日本にはそんな場所はありませんから、陸上にはメタンハイドレートを産出するところはありません。しかし、気圧があがると存在に必要な温度があがります。50気圧下では、プラス6℃以下であれば存在できます。圧力のかかる海底下の地中で、地熱の影響を受けて温度が上がり過ぎない場所。この条件を満たすメタンハイドレート鉱床が、日本の沖に見つかっています。
これが実用化されれば日本は資源大国だ、という意見もありますし、鉱床といっても存在する密度が薄く、採掘から実用化までのコストが高く、採算が合わないともいわれています。
メタンハイドレート自体は、石油に比べて燃焼時のCO2排出量が少ないこともあり、次世代のエネルギーとして期待されていますが、化石燃料であることにかわりはありません。技術が進み、コストが見合うときがくるかもしれません。
しかし、やはり太陽熱やバイオマスといった、再生可能エネルギーとは趣の異なるものですから、夢の国産エネルギーが見つかった、と喜ぶばかりでなく、低エネルギーで暮らせる住まいと生活を目指していきましょう。