びおの珠玉記事
第52回
たくさんあります、建築に関することわざ
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2010年04月30日の過去記事より再掲載)
ことわざは、それが生み出された世相・文化を色濃く反映しています。代表的なのは、ことわざをかるたにした「いろはかるた」。
江戸時代に生まれたという「いろはかるた」にも、江戸かるた、上方かるたなど、地域によって様々な違いがあります。
江戸のかるたは「犬も歩けば棒にあたる」からはじまります。おなじく「い」ではじまる上方のかるたには(これも何種類かありますが)、「一寸先は闇」だったりします。尾張では「一を聞いて十を知る」となっています。
ことわざや慣用句に多いのが、建築にまつわるものです。
上方かるたには、建築に関わることわざが多く含まれています。
(かるた自体に細かいバリエーションがありますので、あくまで参考に)
針の穴から天井覗く
二階から目薬
豆腐にかすがい
糠に釘
笑う門には福来る
鑿と言えば槌
縁の下の舞
(それぞれがどんな意味かは次の項で)
さて、江戸かるたには、実は家に関わるものがほとんどありません。上方には大工・職人が多かったためなのでしょうか。果たして想像の域を出ません。他の地域のいろはかるた情報がありましたら、ぜひ教えてください。
建築はことわざの宝庫
建築から生まれたことわざや慣用句は数多くあります。
[畳]
現在でいう畳は、「厚畳」といって、かつては座ったり寝たりする場所に布団のように出すものでした。かつて「畳」は、ござやむしろなどの総称として用いられいて、何枚も重ねて使ったり、また使わないときはたたんでおくことから「たたみ」と呼ばれるようになりました。
畳の上の水練
畳の上で水泳の練習をやっても仕方がないことから転じて、理屈ばかりで訓練が足りず、役に立たないことを指します。
起きて半畳、寝て一畳
起きて読書に使う広さは畳半畳分で充分、寝るときには畳一畳あればよい、という清貧の姿勢をあらわした言葉です。
千畳敷に寝ても畳一枚
千畳の部屋に寝たとしても、畳一枚分あれば充分だということ。物は必要なだけあればよい、というたとえです。
女房と畳は新しい方が良い
これは現代社会では問題になるような…ノーコメント。なお、フランスには「女とワインは古い方がいい」ということわざがあります。
[釘]
金属で「丁」の字の形をしたところから出来た文字です。今では釘というと丸いものを指しますが、江戸時代までは四角い和釘が使われていました(ページ上部の写真参照)。ことわざの多くは和釘から来ているものでしょう。
糠に釘
糠のようなやわらかいものに釘を打っても効き目がないことから、手応えのないこと、効き目の無いことをいいます。「豆腐にかすがい」と同義ですね。
釘が利く
明確な効果があることをいいます。「釘が応える」とも。
釘を刺す
あらかじめ念を押しておくこと。日本古来の木造建築は、釘や接合金物を使わず、仕口・継手だけで接合していましたが、後に念のために釘を打つようになったことからきています。
釘になる
手足が冷えて凍え、かじかんだ様子をこういいます。
釘の裏を返す
裏側に突き出た釘の先を曲げて抜けないようにすることから、念を押すことのたとえに。釘は「念を押す」という意味が多いですね。
釘の折れ
釘が折れたように見えるほどの悪筆のたとえ。「金釘流」とも。
家売れば釘の価
家は建てるのにはお金がかかりますが、売るときには釘の値段程度になってしまうということです。古くから日本では新築が尊ばれてきたことがわかりますね。ようやく最近になって既存住宅の価値をあげる活動がさかんになってきました。
焼け跡の釘拾い
家が家事で焼け落ちた後で、釘を拾い集めたところでどうにもならないことから、散財したあとで細々と倹約するたとえです。
[かすがい]
金偏に送ると書いて「鎹」。送るという字には繋ぐという意味もあり、金属でつなぐことから「かすがい」となりました。
豆腐にかすがい
本来木材に使う接合金物のかすがいを、豆腐に打ち込んでも効くわけがないことから、手応えのないことを指します。
子はかすがい
子どもが夫婦の縁をつなぎとめる役割になる、ということ。でも最近は豆腐のような夫婦も多いですね。
[棚]
物を載せるために木を渡したものから、「店(たな)」に、また魚の遊泳層などを指すにいたった言葉です。
棚に上げる
物事を棚の上に置いてしまい、手をつけないこと、不都合なことには触れずに知らんぷりをすること。
棚から牡丹餅
努力しないで幸運が舞い込んでくることを指します、が、棚にぼた餅を入れたのって自分なのでは…(すみません、余談でした)。
上方かるたから
先に紹介した上方かるたに含まれるものです。
針の穴から天井覗く
小さな針の穴から天井を見て、それを全体だと思ってしまう、ということから、自分の狭い見識で、広い世界のことを勝手に推測して、誤った判断をしてしまうこと。
二階から目薬
二階にいる人が一階の人に目薬を点すことのように、なかなかうまくいかない、もどかしいことのたとえ(天井から目薬、とも)。江戸時代の目薬は今のような点眼薬ではなく、塗り薬のようなものだったそうですから、ますます難しい?
笑う門には福来る
何かを揶揄するようなことわざが多いなか、さわやかなことわざです。にこにこしていると、自然と幸福がやってくるということです。笑いは体の免疫力を高めるとか、脳を元気にするという説もありますし、みなさんも笑って過ごしましょう。
鑿と言えば槌
鑿が必要だというと、同時に必要なはずの槌まで用意してくれることから、気のきくことの例えとして使われます。
縁の下の舞
縁の下で舞っても、誰も見ていないことから、人が見ていないところで虚しい努力をすることをいいます。
(豆腐にかすがい、糠に釘も上方かるたに入っています)
[小さな家がいい?]
家は狭かれ心は広かれ
小さな家に住んでいても、心は広く大きく持て、ということ。
広き家は鞘鳴り
大きい家は、実用にならず、かえって不具合が多いこと。
[材料]
材料に関することわざも多くあります。現代の新建材だと、ちょっとことわざにはなりにくい感じがしますね。
朽ち木は柱にならぬ
腐った木は柱に使えないことから、性根の腐った人に重要な役割を与えられないたとえ。
材大なれば用を為し難し
材木が大きすぎると使い勝手が悪くなるように、大人物はなかなか世間に受け入れられないという話です。木材は林道の大きさや機械の大きさなどから規格化されている面もありますが、人物の大きさは規格化しがたいですね。
大廈の材は一丘の木にあらず
大きな建物は、ひとつの山の木だけでできているわけではない、大きな仕事もひとりの力だけではできるものではない、という例えです。
その他にも、生き様、教訓が
[うだつが上がらない]
うだつとは、本来は梁から屋根裏にむかって立てる小さい柱のことをいったのですが、やがて隣家との間に張り出した、小さな防火壁を「うだつ」と呼ぶようになりました。本来は防火壁だった「うだつ」ですが、だんだん装飾的な意味合いが強くなり、財力を誇示するためのものとなりました。
ここから、財力がない、生活力がない、というようなことを「うだつが上がらない」と表現するようになりました。
大工の掘っ立て
家を建てるのが本職の大工が、自分は掘っ立て小屋に住んでいる。医者の不養生や紺屋の白袴と似た言葉です。
屋上屋を架す
屋根の上にさらに屋根をかける行為のように、無駄なことをする例えです。
居は気を移す
住む場所や環境は人の心に大きな感化を与えるという、孟子の言葉です。
壁に耳あり障子に目あり
有名な言葉ですが、改めて。どこで誰が見ているか聞いているかわからないよ、という言葉。
軒を貸して母屋取られる
一部を貸しただけなのに、全部を取られてしまうことや、恩を仇で返されるようなこと。
羽目をはずす
隙間なくきちんとならべて板をはることを「羽目」といいます。本来整然と並ぶ羽目をはずしてしまっては意味がなくなってしまいます。羽目を外すとは、調子に乗って度をはずすことをいいます。「〇〇するハメになった」のハメも、ここからくるようです。
埒があかない
「埒」とは、生垣やしきりのことをいいます。埒があく、ということは、障害物が取り除かれることを意味し、反対に埒があかない場合は、障害物が取り除かれない、はかどらないことをいいます。
鬼瓦にも化粧
鬼瓦のような顔でも、化粧をすればそれなりに見られるようになるというたとえ。馬子にも衣装と似た言葉です。