びおの珠玉記事
第74回
北風
(2014年11月27日の過去記事より再掲載)
朔風払葉。
「朔」は、月と太陽の黄経が等しくなるときのことを指します。月が太陽と同じ方向にあり、太陽の反射が地球の側からは見えません。これが新月です。陰暦では、この日を月の初めの日として考えるため、月初めの日を「朔日」と呼びます。
かつては方角も十二支であらわされ、1番はじめの「子」の方角は北を指しました。このことから、北の方角を朔と呼ぶようになります。
「北風と太陽」という寓話もあってか、北風にはどうしても寒いイメージが付きまといますし、実際に寒いのです。どうして北から寒い風が吹いてくるのでしょうか。
北風はなぜ北から吹くのか
北半球の冬は、太陽から地球に届く熱エネルギーが夏より小さくなります。大陸側では、空気も冷えて重くなり、下降気流がおきます。これが冬型の高気圧です。
一方で、太平洋は、熱容量の大きい水をたっぷり持っているため、地面に比べて暖かく、上昇気流を生み出します。これが低気圧となり、いわゆる西高東低の、冬型の気圧配置が出来上がります。
下の画像は、2012年12月1日の天気図です。冬型の気圧配置で、関東・北陸で初雪を観測した日です。
風は高気圧から低気圧に向かって吹く、のであれば、西風になるはずです。どうして西風ではなく、北風が起こるのでしょう。
風は、地面や海の温度差によって生み出されます。温度差をつくるのは太陽エネルギーによるものですから、風は太陽エネルギーが形を変えたもの、といわれます。
ところが風には別の力も関係します。地球の自転によって働く慣性力で、北半球では右側への力として作用します。この力によって、風は西から東、ではなく、右側に曲げられて、高気圧と低気圧の間あたり、ちょうど日本では北からの風として吹いてくるというわけです。
微気候は異なる
日本列島全体としては、このように大きな気圧配置による風の影響を受けますが、実際のところは、風の強い地域もあれば、弱い地域もあります。いつも北風ばかりが吹いているわけではありません。山があれば、そこで風向きは変わります。建物・構造物があっても近隣の風に影響が出ます。全国の気候と、地域の微気候は、当然ながらずいぶん変わってくるのです。
気密性能が低い建物では、風が吹くと漏気があり、暖房負荷が増えてしまいます。いわゆる隙間風です。近年は、建物の気密性能もあがった反面、屋敷林を設けて防風する、というケースはずいぶん減ってきています。もっとも屋敷林は、防風だけでなく、目隠しや遮光、そして燃料の調達など、さまざまな役割を持っていました。
冬の寒い風を代表するような呼び名に、「颪(おろし)」というものがあります。赤城おろし、筑波おろし、六甲おろしなど、山から吹き降りてくる風は強く冷たく、そうした地域では、そうした冬の気候にそなえるために、地域にあった防風林を作ってきました。
屋敷林の効果は、定量化できる住宅外皮の断熱・気密と比べると表現がむずかしいのは事実です。
ただ、建物の性能があがったから必要ありません、と切り捨ててしまうには、その知恵と風景はあまりにも惜しいものです。
東京風速
さて、風にまつわるWEBサイトで、ちょっとおもしろいものをご紹介します。
東京都限定ですが、東京都環境局と国土交通省のデータを用いて、風向きや勢い、風速などを地図上で表現したものです。
1時間ごとのほぼリアルタイムの状況がみられますので、東京の方はとくに楽しめるのではないでしょうか。
台風前後の例も掲載されていて、台風とはいかにすごいのか、ビジュアルで実感できます。
他にも、気温、光化学オキシダントやPM2.5といったものもプロット出来ます。
正確な情報を提供するためのものではありません、との注意書きがありますが、風・空気の傾向をつかむだけでなく、何かのインスピレーションにもなるかもしれません。
ぜひ一度、のぞいてみてください。