町の工務店の「My定番」

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これまでの住まいの「あり”型”」を崩したい

My定番 イシハラスタイル 寺津の平屋
一目で誰が建てた家かわかる独自のスタイルをもった町の工務店を顕彰する「Myマイ定番ていばん」の最初の取材先として愛知県西尾市にあるイシハラスタイルさんを訪れました。

My定番 イシハラスタイル 寺津の平屋

「杉板鎧張りの外壁」と
「木製サッシ」

愛知県西尾市は愛知県の中央を南北に流れる矢作川の下流域に位置し、東は三ヶ根山などの山々が連なり、西に矢作川が流れ、南は三河湾に臨んでいます。年間を通して気候が温暖で、冬でもほとんど雪が降ることがありません。こうした恵まれた気候風土から縄文の時代から人々の営みがみられ、農水産物の生産拠点として発展してきた地域です。イシハラスタイルのお客さまの中にも農家や元農家という方が多く、母屋や納屋がある大きな敷地の中に家を建てるケースが少なくないそうです。そんな地域性が背景にある中、イシハラスタイルを率いる石原真さんはつねに自分たちがつくる家の「外観」を意識しているといいます。
「私たちが建てる家のほとんどは外壁が杉板の鎧張り、屋根は切妻か片流れの緩勾配(2.5寸が多い)でシルバーのガルバリウム鋼板の縦ハゼ葺き、木製サッシであることも死守していることの一つです。」

大きな敷地内に建てる場合でも道路からどう見えるか、遠くからどう見えるかを強く意識されていて、これらの要素は外せない決まり事と位置付けています。

My定番 イシハラスタイル 幸田の家

板張り外壁の家

遠くからどう見えるかを常に意識している。それが町の風景になるからだ。

建物と一体となった
庭のある住まい

また、外観を構成する要素として「庭」も死守していることの一つだといいます。
「庭は後から考えるという人もいますが、私は家とともに庭があってはじめて住まいになるのだと考えています。作庭は地元の気心が知れた造園屋さんにお願いしていますが、彼とはいつも少々無理してでも必ず庭をつくっていただけるように提案していこうと話しています。」
海が近いことから塩害に強い樹種を選ぶなど、地域性を意識した植栽を施すことも約束事の一つです。木を意識した外観の家と庭が一体となった住まいのあり方はイシハラスタイルらしい家づくりを端的に表現しています。
「例えば、木製建具は一般的に高価ですが、ガラスを別発注してノックダウン方式で購入することで価格を抑えることができます。自分たちで組み立てることはメンテナンスに対しても責任を持つことができるので、それを含めて私たちらしいあり方だと思っています。」
板張りの外壁も住まい手が自分で塗装できたり、鎧張りだと傷みやすい下のほうの板だけを交換することができるのでメンテナンスしやすく、少し頑張れば住まい手自ら交換することだって可能だといいます。住まい手自身に住まいに関与してもらう余地を残すことも「My定番」を構成する目に見えない要素で、こうした思いが外観からも感じることができるのかもしれません。最近ではこうして死守してきたことが地域に浸透してきたことを“手応え”として感じることがあるそうです。

リビングや玄関は
「要らない」

家の内部に目を移すと、いわゆる「リビング」がないことに気づきます。
「テレビに向いたソファが置いてある、よくあるリビングは要らないと思っています。それよりも私たちが重視しているのはキッチンを中心とした住まい方や、土間や軒下空間のような何をしてもいいような中間的な空間です。」

My定番 イシハラスタイル 碧南の家

家族団らんのあり方や個々の居心地のよさ、家での過ごし方は時代とともに変化しています。コロナ禍によってこの変化は劇的に変わりつつあるかもしれません。
「キッチンもシステムキッチンはおろか、造作のキッチンもつくりません。」
キッチンもテーブルや収納と同じ家具として位置付けていて、“造り付け”をやらないことがイシハラスタイルの「My定番」になっています。
「“股旅社中またたびしゃちゅう”という家具デザイナーと工務店と住まいに関するメーカーが協働するワークショップに参画していて、既製品や造作家具で自分たちが満足できるものがなければ、オリジナルの家具を自分たちでつくろうというプロジェクトです。」オリジナルで開発された家具の出来が良ければ汎用化して多くの住まいに取り入れられていくことになります。イシハラスタイルのキッチンは置き家具の上にシンクやコンロが置かれているだけなので、いざとなればキッチンを動かすことだってできるわけです。既存の考え方による玄関やシューズクロークなども同じ理由から「要らない」といいます。

My定番 イシハラスタイル 碧南の家 出入り口

家に出入りするのに玄関である必要はない。要は靴を脱ぐだけのこと。
My定番 イシハラスタイル 寺津の平屋

造り付け家具はつくらない。“変えられる”ことが住まいを豊かにする。

用途が決められていることへの反発

石原さんは最初のプランの提案では、できるだけ庭と一体となった平屋のプランを提案するそうです。
「もちろん平屋のほうが構造的にも安心感があるということもありますが、メンテナンスが容易というのが第一の理由です。勾配が緩い屋根が多いというのも、周辺の景観への配慮というプロポーション上の理由とともにメンテナンスのことがあるからです。」
建築対応エリアもできるだけ車で30分以内という近さです。建築時もメンテナンス時もお客さまと職人と現場のそれぞれの距離が近いことが第一だと考えているからです。今回、石原さんからお話を伺って、「定番」というテーマであるにも関わらず、目に見えることよりも石原さんご自身の内面やお客さま、地域、職人さんに対する思いこそイシハラスタイルの「定番」なのではないかと思えました。
石原さんは「ラフなのが好き、完成されたものよりも自分たちがどうにかできる、手出しできることが好きなんだと思います。」そして、「家を含め、建物は所詮人工物なんです。」と語りました。自然の邪魔をしない、せめて自然に馴染む家をつくりたい、変化していくのが自然だとすると、変化できないことは不自然です。用途が決められていること、変化できないことに対する反発が石原さんの家づくりのそこかしこに表出していて、結果としてお客さまがそれを感じ取り、イシハラスタイルの「My定番」を形づくっているのではないかと思えてなりません。

My定番 イシハラスタイル 寺津の平屋 軒下

イシハラスタイルの
「My定番」要素

・杉板鎧張りの外壁
・切妻や片流れの緩勾配鋼板屋根
・ノックダウン方式の木製サッシ
・家と一体の造園計画
・キッチン中心のプラン
・リビングや玄関をつくらない
・造作家具はつくらない
・家具屋がつくる置き家具を使う
・施主もメンテナンスできる
・空間に限定した用途を決めない
・住まい手が関与できる余地を残す
・地元の職人、素材、植栽で建てる木の家
石原真
石原真(いしはらまこと)
(株)イシハラスタイル代表。県立西尾高等学校、愛知大学卒業。一級建築士であり、大工でもある。棟梁の志を持ちながら、地元・三河の豊かさを大切にする家づくりをめざしている。
石原智葉
石原智葉(いしはらともよ)
結婚を期に入社。県立西尾高等学校卒、南山短期大学卒。建築の世界に入ったのは、会社を手伝うようになってから。
人が好きで、人の為になる仕事がしたいと思い一級建築士を取得し責任感を持って相談される工務店女子を目指す。
愛知県西尾市イシハラスタイル施工事例
(株)イシハラスタイル(いしはらすたいる)
愛知県西尾市寺津町亀井22
TEL:0563-58-1231
URL:http://www.ist-a.com
イシハラスタイルは棟梁の志を持ち、地元の豊かさを大切にする工務店でありたいと考えています。
住まい手としっかり繋がって、設計、デザイン、現場、暮らし、建物、庭、環境が一体になった家づくりをめざしています。
建築は繋がりから生まれるものだというのが、わたしたちの考えです。いい家を建てるのは誰かと問えば、それはいいお客様が建てるのです。わたしたちがいい工務店になるには、いいお客様と出逢い、いい繋がりを持ちながら一緒に取り組むことが不可欠なのです。そして、設計士と大工と職人、家具デザイナー、メーカー、作庭師たちがいい関係で繋がったプロ集団としてお客様のための家づくりに向かう。そんな繋がりを大切にして、この一棟と真摯に向き合い、丁寧に丁寧に考え抜き、これでもかこれでもかとより良いものを探る。
お客様との対話にも、設計にも、工事にも、そして引き渡してからのおつきあいにも、すべてにおいて匠の精神を注ぎ、家づくりに取り組みたいと考えています。