まちの中の建築スケッチ

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神田カトリック教会
——まちのアクセント
としての教会建築——

神田カトリック教会

先々月の文化学院のアーチのある「とちの木通り」は神田駿河台の崖上の道で、崖下は神田猿楽町。その間に、関東大震災のあと通路があると良いというので作られた、男坂と女坂という名の階段の道が通っている。水道橋寄りの方の2度折れの階段の女坂を降りると、少し先に神田カトリック教会がある。
神保町から斜めに仕事場のA-Forumに向かうと気づかないのであるが、3か月ほど前に「本の街」というまちの情報誌に「千代田区というまち」と題して、小文を書かせていただいた。御茶ノ水駅周辺には意外とお蕎麦屋さんが無い。神保町、小川町界隈にはいくつかあるのだが、「本の街」に出ている店を探していて、教会に出会った。それ以来、毎週のように少し足を延ばして、同じ蕎麦屋で昼を食している。周辺は高層ビルが不規則に立ち並び、教会の敷地は、ほっとするまちのアクセントになっている。ときどき足を停めてスマホの写真に収めている人がいる。入り口の屋根の上に5角の真っ赤の星が置かれていて、なにやらクリスマスを感じたりする。
明治7年(1874年)に創設された聖フランシスコ・ザビエルに捧げる聖堂が始まりで、関東大震災で壊れた後に、昭和3年(1928年)に鉄筋コンクリートの耐震建築として建設されたものだという。同時期に建てられた神保町別館が先月解体されてしまったのは、実に残念なことである。
設計は、スイス人のマックス・ヒンデル(1887-1963年)とされ、北海道を始め日本の各地に教会建築の作品を残した人のようだ。神田カトリック教会はじめ多くが登録文化財に指定されている。
ヨーロッパのまちなみでは、教会はまちに溶け込む形で、しかし塔がそびえてランドマークとなっているが、わが国だと、仏教寺院に比べても特別に大きな規模ではないことが多く、また特に市街地では周囲のまちなみの、中高層近代建築の中に埋もれがちである。御茶ノ水周辺ではニコライ堂のように駿河台の丘の上に建つ場合と比べると神田カトリック教会は、崖下に位置していて、遠くから目立つ存在にはならない。それでも、まち歩きのときには、歴史を感じるアクセントになっていることは、まちにとってとても貴重な存在だ。
昨日あたりから急に寒気がやってきて、昼間でもスケッチをしていると指先がかじかむ。冷えた体を蕎麦屋で中から温めた。

著者について

神田順

神田順かんだじゅん
1947年岐阜県生まれ。東京大学建築学科大学院修士修了。エディンバラ大学PhD取得。竹中工務店にて構造設計の実務経験の後、1980年より東京大学工学部助教授のち教授。1999年より新領域創成科学研究科社会文化環境学教授。2012年より日本大学理工学部建築学科教授。著書に『安全な建物とは何か』(技術評論社)、『建築構造計画概論』(共立出版)など。