まちの中の建築スケッチ

35

神保町ビル別館
——解体を待つビル——

神保町ビル別館

先日、東京都が都市計画原案の公聴会をやるというので、せっかくの機会だからと思って原案を取り寄せ、意見をメモして公述の申請をしたところ認められて10分ばかり意見を述べて来た。コロナの問題もあり、人口減少や東京一極集中の問題などを考えると、これからの都市計画は、容積率すなわち総延床面積を減らして、緑を増やすことだと思うのだ。
そんな東京に、けっこう再開発プロジェクトは少なくない。他の公述人からは、品川区東大井、千代田区番町、中央区月島、葛飾区立石などで大規模再開発をやめてほしいという意見が開陳された。
低層の密集地区を道路なども含めて大きな敷地にまとめ、高層ビルにすることで町はきれいになり防災上も安心だというのがねらいである。しかも、容積率に余裕があると、今の住人たちは、広い住戸にお金をださなくても入れたりするから、すべて良いことのように言われるのだ。さらにそれを進めるためには、区の土地も一部あったりすると、区の施設を入れたり、貸室ができたりもする。補助金もついたりする。開発事業者は、容積率一杯使って、場合によっては、公開緑地などの提供で容積率にボーナスを付けたりもすることで、収益を確保する計画にまとめる。
まずは、その地区にどのくらいの人口密度の住まい方がよいかということで考えると、だいたい容積率の設定そのものに問題がある。小さな商店のすべてが新しいビルに入るわけではないし、いままでの商店街を低層のままで整備してほしいという人も当然いるので、まちに賛成派と反対派ができてしまう。問題は、自分たちのまちがどうあると良いかを考えて意見を交わして計画を考えるというよりは、法律的に、経済的に再開発が可能となると、企業として採算が取れるとなり、ブレーキをかけるものがないということだ。
千代田区や中央区という世界を相手の大企業がひしめき合う東京で、超高層ビルが軒を連ねてはいるが、そこにも番町のような住宅街もあれば、神保町のような古書店街もある。東京もこれからは人口減少。コロナ禍もあり、すでにいくつかの区で転出が始まっているという。
小学館の神保町ビル別館となっているが、昭和5年に相互無人会社として竣工したのだという。その後、いくつかの銀行を経て、最近までは日本タイ協会が使っていた。すでに、解体工事の標識が貼られている。隣の敷地は、少し前までは駐車場になっていたが今は更地。
どのような規模でどのような計画があるのかは知らないが、まだ使える築90年のビルには、周辺のビルにない味わいがある。四角いビルに四角い窓がついているだけのようでいて、自分より大きいビルに対して影響を与えるかのように存在感がある。効率的な計画で床面積を増やせば、他のビルに空き室が増す。もちろん、すべてのビルを使い続けるということはありえないが、ごちゃごちゃしてきたまちの中で、ほっとする小規模の、歴史を感じられるビルの存在は貴重だ。
残してほしいという声も高まりを見せているというが、建築主の気持ちがそちらに傾くことを期待しながらスケッチした。

著者について

神田順

神田順かんだじゅん
1947年岐阜県生まれ。東京大学建築学科大学院修士修了。エディンバラ大学PhD取得。竹中工務店にて構造設計の実務経験の後、1980年より東京大学工学部助教授のち教授。1999年より新領域創成科学研究科社会文化環境学教授。2012年より日本大学理工学部建築学科教授。著書に『安全な建物とは何か』(技術評論社)、『建築構造計画概論』(共立出版)など。