びおの珠玉記事

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森里海から・大内宿

福島県会津若松市の大内宿

2年前の秋、福島県会津若松市にある「大内宿」を訪れる機会がありました。ここは「重要伝統建造物群保存地区」(伝建地区)にも指定されている集落です。

江戸時代の町並みを今に残す宿場は下野街道と呼ばれた会津と日光を結ぶ街道の両脇に、茅葺き屋根の民家が並び、江戸へ向かう大名や旅人の宿駅として重要な役割を果たしていたようです。 軒以上の茅葺き屋根の民家が並ぶ様子は壮観で、現在も年間100万人以上の観光客が訪れ賑わいを見せています。

私が訪問した際も数多くの観光客で賑わっていました。

伝建地区だけあって建物の保存状態は素晴らしく、これだけの数の江戸時代の建築物を群として現在に保存できていることは驚嘆に値します。またそれらの建築群がつくり出す街並みはまさに日本(会津)の原風景といった風情で美しいです。街道の両側、すなわち家屋群の店先には豊富な湧水が流れています。この透き通った美しい水はいまでも生活用水として利用されるとともにその用水路は街の景観をつくる重要な要素として存在しています。裏山には茅葺屋根の材料になるススキの群落、いわゆる茅場がところどころに残っています。屋根の補修には、おそらくこの茅(ススキ)が使われるのでしょう。

ススキの群落
湧水の用水路
透き通った湧水

日本の伝統的古民家群として一見の価値のある大内宿ですが、一通り見て歩いた後なにか物足りなさのようなものも感じました。それはほとんどの建物が同じようなお土産物のお店になっていてその建物での生活感が感じられないこと、いわゆる観光化していて街や建築群は展示物のような位置づけになってしまっていることからくるのだと思います。大内宿ではやむを得ないことだと思いますが、全国に残る古民家や空き家の問題を考えるとき建築物の「保存」と「再生・利活用」をバランスよく考えていくことが重要なことだと改めて思った旅でした・・・。

紅葉と渓谷

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2017年03月05日の過去記事より再掲載)

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。