びおの珠玉記事
第94回
鱖魚群。鮭が森をつくる。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2012年12月16日の過去記事より再掲載)
大雪の末候、鱖魚群です。「鱖」は、さけ、と読ませていますが、七十二候の元になった中国では、鱖魚(ケツギョ)(桂魚、石桂魚、桂花魚などとも書く)を指しています。日本では、石桂魚と書いてサケと読ませることもあり、七十二候が入ってきた時に、日本にはいない鱖魚を、鮭にあてたということのようです。
鱖魚は、どんな魚料理もあう高級魚として珍重される一方で、日本では特定外来生物に指定されています。日本の生態系にはあわない魚、ということです。日本の七十二候がいう「鱖魚群」は、鮭が産卵のために川を遡上する、ということを指しています。
鮭が森をつくる
遡上した鮭を、熊が川に入って捕まえる―。木彫り細工などでも知られる、お約束のようなシーンです(実際に見たら、迫力がすごいのでしょうけど)。
日本では、北海道のヒグマが知られていますが、北米などでも同じような光景が見られるそうです。
アラスカでは、熊によって鮭という漁業資源の経済損失が問題視され、熊の大量駆除が提案されたことがありました。実際には大量駆除には至らなかったのですが、その後の調べで、熊が鮭を獲るということは、海の栄養素を森林に運び込むということがわかってきました。
熊は、その個体や、時々の食糧事情よって差はあるようですが、鮭全部を綺麗に平らげる、というばかりではなく、はらわただけを食べて捨てたり、背中だけ食べて捨てたり、という食べ方をします。
捨てられた鮭の死骸は、栄養素として川沿いの森林を育みます。鮭と、そして熊が、海の栄養を森に伝える役割をしています。
鮭は川で生まれ、海に出て、また生まれた川に帰ってくることで知られます。
海に出ていくときの稚魚は、せいぜい何十グラム、、という程度の大きさです。それが「鱖魚群」として川に帰ってくる頃には、数キログラム以上に育って戻ってきます。鮭は栄養価が高く、また大量に遡上してくることもあり、海から川、そして森への栄養の供給力も高い、ということになります。
アラスカ東南部の川での調査では、川の長さ250mあたりで1ヶ月で80キログラムの窒素と11キログラムのリンが供給されていることがわかった、というものがあります。
野生動物と日本
いま、日本の林業で問題になっていることの一つに、野生動物による食害があります。幼齢期の枝葉や樹皮を食べられてしまうため、樹への直接の被害もありますし、防除のためのネットや忌避剤といった手間・コストも増えています。
特に被害をもたらすのは鹿です。平成23年度は食害面積およそ9400ヘクタールに対して、5700ヘクタールが鹿によるものとされています。
防除だけでなく、直接の鹿の駆除(殺害)も行われています。本来鹿には狼という天敵がいたためバランスがとれていました。ニホンオオカミは、人為的な行為の結果絶滅したといわれています。狼がいない山では、鹿は増え、そして今度は鹿を人為的に駆除するように…。鹿の駆除は「個体調整」等といわれ、絶滅が目的ではなく、適正な数に調整をするもの、とされています。適正な数、を人間が適正に算出してコントロールできるのか、いままでの人の行為を見る限りは、安心できませんが…。
野生動物の被害報道では、熊や猪が人里に降りてきて射殺された、というものも目につきます。
人里が広がると、生息場所がなくなったり、あるいは人里にある食糧に誘われて、熊が人に出会う機会が増えて駆除されます。今年8月の改訂版レッドリストでは、九州のツキノワグマは絶滅したという判断がくだされました。
熊本のゆるキャラ、くまもんがずいぶんと人気ですが、熊本には熊はいないのです。熊本は元来「隈本」であったものを、加藤清正が熊本城築城にあわせて改めた名前だと伝えられています。そういう意味では、あまりご当地に関係あるキャラではないとは思いますが、そこがゆるキャラたる所以でしょうか。
九州では野生のツキノワグマが絶滅する一方で、北海道のヒグマは、人里近くに出てくることが増えているという話があります。先の「鮭と熊」の写真を撮りたくて餌付けをした写真家がいて、それが熊の間で根付き、人に慣れて人里に出てくるのだと。人が生み出した生態系ではないのに、人が随分そこに関わることが出来るようになってしまいました。
「生態系」は、英語ではEcosystemと表記します。ecoというのは、省資源のことや省エネルギーのことではなく、持続可能な循環そのものです。鮭が生まれた川に群がり、栄養になって森に還っていくように、自然は絶えずバランスをとりながら循環し、継続していくものです。鮭を見て森が想像できるようになれば、では他の生き物は、そして自分の生活は、と、循環の想像が続いていきます。物事にはみなつながりがある、ということを忘れずに。特に、今日選ばれる政治家の皆さん。