びおの珠玉記事

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火の話 その2 家で火を愉しむ

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2011年12月12日の過去記事より再掲載)

焚き火

冬は、つとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし。

枕草子の一文です。
きりっと寒い冬の朝に、火を起こして炭をつけることの味わいを語っています。
当時と今とでは、暖房も衣服も住宅の性能も違いますが、それでも寒い中、火をつけることの愉しさ、美しさは、今も変わりません。

前回の特集でもお伝えしたように、火には精神的な意味合いが多分に含まれます。
エアコンのスイッチを入れるときにはほとんどなんの感慨も起こりません(むしろ、昨今は罪悪感を覚える人がいるかもしれません)が、薪や炭に火をつけることは、儀式のような昂ぶりを覚える人が多いでしょう。
今回は、生活の中に残っている「火」を中心に取り上げます。

生活に残る火

照明としての火は、家庭生活の中ではまず見ることはできなくなりました。
残っているのは、調理用、暖房用、儀礼用、そして焼却です。
これらは単体だったり複合的だったりします。

お盆の迎え火・送り火や仏壇の蝋燭、線香といった仏教行事にも火が欠かせません。
神道のお正月飾りを燃やす「どんど焼き」は、儀礼であると同時に、その火で餅を焼いたりといったことも行われます。

ろうそくの火

誕生日のケーキに立てる蝋燭や、アロマキャンドルも、宗教行事ではないものの、やはり一つの儀礼のような精神性を感じます。
結婚式のキャンドルサービスもこの例かもしれません。

落葉などを集めて燃やし、焼き芋をつくる「焚き火」は、焼却と暖房、そして調理も兼ねてしまおうというものですが、最近では焚き火・野焼きの類いは消防上の理由、あるいはダイオキシン対策として禁じられていたり、届出が必要だったりというケースが見られます(今年は原発事故の影響を受けて、野焼きには一層厳しい世論が形成されているようです)。

焚き火

調理用としては、家庭ではガスが、飲食店では炭火を売りにしているところもあり、まだまだ火による調理が主役といえるでしょう。
暖房器具としては、石油ストーブ、石油ファンヒーター、ガスストーブなどの化石燃料を燃やす暖房や、薪ストーブ、ペレットストーブなどのバイオマス燃料によるものがあります。

薪ストーブを愉しむ

さて、その中でも今回は薪ストーブのご紹介です。

薪ストーブ

薪ストーブは三回暖まるといわれています。
木を切るとき、薪を割るとき、そして火をつけて暖まる、というわけです。
裏を返せば、決して手軽な暖房ではありません。けれど、この暖房に魅せられる人が多くいます。

そして薪ストーブの愉しさは、暖まるだけではありません。火に人が集い、調理の楽しみも。

[この項写真提供:菅組]

新築でなくてもでも出来る薪ストーブ

火の魅力にとりつかれて、新築時には薪ストーブのある家を、と望む人も多くいます。でも、必ずしも新築住宅ばかりの特権ではありません。
薪ストーブは新築住宅ではなくても設置可能です。煙突の取り回しが鍵です。
これは、屋根から抜かずに複雑な経路で壁から排気をしている例です。

薪ストーブの長い煙突屋根の上の煙突

排気経路が複雑になると着火がしづらくなるといわれています。設置の際は,プロによくご相談を。

既存住宅への薪ストーブの取り付け

[この項写真・動画提供:マクス]

めんどうくさいからいい

町の工務店ネットのメンバー、ミズタホームの水田和弘社長は「めんどうくさい家をつくる」と語っています。
物事が簡単便利、メンテナンスフリー、考えなしに出来ることばかりになっていくなか、そうじゃないほうがいいよ、という宣言です。

薪ストーブは、エアコンに比べたら確実に「めんどうくさい」暖房です。
煙突掃除も必要です。ガラス面もきれいにしておかないと、きれいな火がたのしめません。

薪ストーブのガラス清掃

[動画提供:マクス]

薪だって、公共インフラではありませんから、自分で入手経路を確保する必要があります。
灰の始末も必要です。
でも、それがいいのだと、薪ストーブ利用者はみないうのです。

ただ暖かいとかそれだけでなく、火がもっと様々な役割を果たしていたときの、人の本能に働きかけるものがあるからこそ、なのでしょう。

開放型ストーブは要注意!

「家庭の火」としては、開放型ストーブも手軽な存在です。が、要注意。
東日本大震災・原発事故の際に、電力による暖房が出来ないために、開放型石油ストーブを買い求めた人が多いと報道されています。
「開放型ストーブ」は、煙突などの排気装置を持たず、燃焼した後の排気を屋内に直接放出します。この際、不完全燃焼が起こると一酸化炭素が発生します。一酸化炭素濃度があがると、頭痛等の症状があらわれ、場合によっては命に関わることがあります。
よく、ストーブの燃焼の臭いが有毒だと考えている人がいるのですが、一酸化炭素は無臭・無色です。このため、開放型ストーブを使う場合は必ず一定時間ごとに窓をあけて換気する必要があります。
また、開放型ストーブでは、燃焼時に、燃料に含まれる水分が水蒸気となって放出されます。

特に高気密住宅では、開放型ストーブの使用は厳禁とされています。
通常は、こうした家では開放型ストーブは所有していないはずですが、有事の際に慌てて買い求めたり、ということがあるかもしれません。機械換気も停電時には止まってしまいますから大変危険です。
原発事故を受けて、急遽開放型ストーブを買った、という人は、くれぐれも使用にご注意を。
(今回ご紹介した薪ストーブは、煙突による排気を行うので、この注意には該当しません)