ちいきのたより
Vol.46 記憶の器としての住まい
千葉県柏市 小川工務店
ちいきのびお2巡目がやってきました。
千葉県柏市からこんにちは、小川工務店の古賀です。
初夏というには暑すぎる日曜、国指定重要文化財である旧吉田家住宅歴史公園に行ってきました。
白状すると訪れたことはおろか、その存在も知りませんでした。
居住エリア、しかも工務店に勤務する者として石を投げられても薄ら笑いしかできません。
なお、社内で知らなかったのは圧倒的少数であったことをお伝えしておきます。皆さまご安心ください。
旧吉田家住宅は、江戸末期築造。
2004年に42代となる奥様がご逝去され、柏市に寄贈されたものを、その後一般公開したものです。
吉田家は豪農であり、豪商。また幕府軍用馬の放牧管理をする牧士として名字帯刀・乗馬・鉄砲所持が認められた武家という3つの側面を持っていました。
驚くのは長屋門。本来であれば武家屋敷に作られるものですが、名主であることから建設が許可されたそうです。門の大きさは全長25m、幅5mの大迫力。ここが住宅街の真ん中であることを忘れさせます。ちなみにこの吉田邸および長屋門は、ドラマ『JIN』のロケ地として使用されています。
長屋門は天保2年(1831年)に吉田家で最も古く建築されたもの。
歴史と照らし合わせると鼠小僧が奉行所に捕縛され処刑された年です。
時代が時代なら脇戸からの出入りですが、入場料と引き換えに手に入れた手形で、総ヒノキ造りの門を堂々とくぐります。ここからボランティアの案内スタッフさんに連れられて、知識ゼロからでも楽しむことのできる吉田家ツアーの始まりです。
目に飛び込んで来たのは、およそ20mにおよぶ茅葺き民家。
50~60年に一度葺き替えるという屋根は、茅の間に漆喰を塗り重ねられこの厚さになっています。
客人用の玄関より室内に入ると、最初に目にするのは正面に設けられた仏間です。
来客時はふすまを引いて目隠しをしたそうですが、身分の高い方を迎えるこの場所にご先祖様を配置した理由はいったい…。もしかしたら、先祖代々フルメンバーで訪れる方を歓迎していたのかもしれません。
水がキレイだといわれたこの土地で、大正11年まで醤油の醸造・販売をしていた吉田家。
玄関の隣には豪商と言われる所以であったミセがあります。そこに張り出すように作られた3畳間の帳場座敷。
つくりは茶室によく似ています。
ミセの出入り口に面した窓には障子の下一段に緑色のガラスをはめ、中から外は見えるものの、外からは見にくくなっています。
ここは主人が帳簿をつけるほか、嫌なお客から逃げ込んだ部屋ともいわれているそうです。
今でいうコンビニのバックヤード的な性格も持っていたのかもしれません。会ったこともないはるか昔の当主の人間味を感じるエピソードです。
ミセの奥には土間と茶の間を見学することができます。
手前の銅板の蓋で覆っているのは、主に使用人が使っていた囲炉裏を復元したもの。
2004年に柏市に寄贈されるまで、ここへシステムキッチンが置かれていたそうです。ヒノキ製7mの大黒柱には障子が入っていたということで、補修した跡も見えます・・・。
最近まで実際に使われていた住まいだからこその、生活感と歴史が交差するバランスに痺れます。
茶の間の奥には、工夫を凝らした建物にそぐわない、3畳の質素な小部屋がありました。
ここは当時の女中部屋。
実は昨年びっくりする事件があったそうです。
案内スタッフがいつもの通り
「この部屋の冬は凍える寒さだったでしょう。」
と説明すると、それを聞いた見学者の女性が一言。
「ここは○○ちゃんと2人で使っていたから寒くなかったなぁ。」
……そうです!
なんとこの見学の女性、かつて実際にここで働き、この部屋に住んでいた方だったそうです。
吉田家が重要文化財として一般に開放されたことを知り、来場したとのこと。
ここを訪れた見学者の中で、最もドラマチックな来客といえそうです。
最後に紹介するのは、釘隠しまでこだわって作られた書院です。
前座敷と奥座敷からなるこの場所は三方に広縁をもうけ、緑豊かな庭をたのしむことができます。
住み込みの庭師によって、明治から大正にかけてなんと8年をかけて作り上げられました。
今でいう風水である、中国の四瑞を取りいれて配置された樹木は、4種の想像上の動物になぞらえています。
あおぎり 鳳凰 【平安、平和】
赤松 龍 【優れた知性】
ひば 亀 【強い生命力】
まき 麒麟 【相手に対する思いやり】
この庭は吉田家にとってのパワースポットだそう。
歴史ある廊下に座り込むと、汗ばむ気温にも関わらず、気持ちいい風がフワァーと吹き抜けていきます。
長い時間、人が住む「家」という機能を失わず、家人の息吹を感じながら住まい継がれてきたことを考えると、当時の当主の想いは子孫に伝えられその意味を成しているように感じます。
そのパワー、どうかわたしにもちょっとだけお分けください…。マジで。
最後は蔵を利用してつくられたカフェへ。
この蔵は米俵の保管に使われていたもので、斜めに張られた板は、積み上げた俵を傷めないようにとの配慮だそうです。
アイスの脇に置かれたメモ帳は、勉強してきましたアピール。
はい、わざと画角に入れこんでいます。なおかつ、2回撮りなおしたことは内緒です。
お腹も満たされ、吉田家巡りは終了。出口である長屋門へ。
門の内側から外の景色を見て思ったのは、去年訪れたという元女中さんのこと。
この場所での職を辞してここから出て行くとき、どんなことを思っただろう…。
昨年の見学終了時には何を考えたのかなぁ…。
彼女にとってここは、働く喜びで笑顔になったことも、うまくいかないことに悲しんだこともあったであろう場所。ここが整備され、地元市民や観光客が集う場所になったことを、懐かしく感じ喜んでいることを願います。
家は毎日の生活の場にとどまらず、褪せていく記憶を留めるタイムカプセルのようなもの。
住む人の様々な感情を乗せて次の世代に渡される、そんな「物語のある住まい」になることを目ざし、私たち工務店も日々努力していかなければと感じた日曜の午後でした。
ちいきの記者
古賀知加子こが・ちかこ
工務店に入社して10年余り。こんなに長くいるつもりもなかったのに、楽しみながら仕事をしていたらこんなに時間が過ぎていました。
会社内では広報をはじめ受付、経理や総務など何でも屋。領収書紛失は許しません!(笑)
お客様に最初に接することになるので、明るく気持ちのいい対応を心掛けています。
(株)小川工務店おがわこうむてん
千葉県柏市新逆井2-9-17
TEL:04-7174-4102
URL:https://www.ogawa-bco.co.jp
「より良い住まいづくり 豊かな暮らしのお手伝い」をモットーに、お客様のニーズに合わせた新築住宅・リフォーム・リノベーション工事を行っています。
安全・安心・快適・健康・幸福な住まいと暮らし実現に向け、工事終了後も「住まいと暮らし生涯点検」を行い、住まいのホームドクターとしてお役に立てるよう、社員一同努力しています。
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