色、いろいろの七十二候
第43回
閉塞成冬・夜空
浅葱色 #00A3AF
藤鼠 #A6A5C4
寒いけれど外に出て、冬の夜空を見てみませんか。かじかむ手に息を吹きかけ、足踏みしながら夜空を見上げると、すばる、双子、オリオンなど、荒星といわれる星たちが煌めいています。
澄んだ冬の空には,合計7個もの1等星が燦々と輝いています。
関東以南では,地平線すれすれに上るりゅうこつ座のカノープスが加わって、1等星は全部で8個になります。
恐いほどにきれいな星たちです。
でも、意外と冬の空は賑やかだから、こんな句もあります。
地上には雪だるまがあります。夜空は、冬の星々がおしゃべりをし合っています。黙っている雪だるまと、賑やかな星たちの対比が、何ともおかしみを誘ってくれる句です。
この多佳子の句は、わたしの大好きな句の一つで、過去、何回か取り上げています。
お店の電灯の外に張り出して置かれた林檎を星空が照らしている、という写生句ですが、情景が目に浮かび、それは子どもの頃に接した光景につながっていて、何とも懐かしさを呼び起されるのです。
近頃の街の灯は、どぎついパチンコ屋のネオンサインと、立ち並ぶ自動販売機の照明が目立つばかりで、こういう情趣は失われていることに気づきます。
尾だになからましかば、まいて。 (『枕草子』236段)
清少納言も、冬の空を眺めていたと知った時、千年という時空を超えて、彼女が何だか近しい人に思えました。
歴史家の樋口清之の本を読んでいて、紫式部や清少納言は、当時の照明事情からして煤が出る魚油を使っていたと考えられるので、朝の顔は煤に塗れていたという箇所があり、そうして恋文を書き、『源氏物語』や『枕草子』を書いていたかと想像したら、あまりにおかしくて眠れなくなりました。このときも、彼女を近しく感じたものでした。
漢字で“昴”と書く星の名前は、谷村新司の歌でよく知られるようになりました。“すばる”は和名です。すばるは、「すばる(統ばる)」「すまる(統まる)」という動詞が語源で、統治する「すぶ(統ぶ)」を意味します。
すばるは、肉眼でよく見える星の集まりプレアデス星団です。光の速さで400年以上かかるところにあって、生まれて間もない(といっても約8000万年)高温の星々が集まっている星団です。和名では、別に“はごいた星”とも呼ばれています。
大小数百もの星の集まりですが、肉眼では6つの星の集まりに見えます。「六連星」や「六連珠」などの異名の理由ですが、双眼鏡で観測すると数十個の青白い星が集まっているのが見えます。要するに“すばる”は、それらを「すぶ(統ぶ)」星なのです。
さて、夜空に目を戻しましょう。
ふたご座とオリオン座は、南の空からほぼ同時に昇ってきます。
ふたご座は、カストルとポルックスという明るい2つの星が輝いています。カストルは2等星、ポルックスは1等星に分類されますが、カストルが少し暗いかな、という程度で同じように輝いて見えます。
オリオン座は、三ツ星が目につきます。三ツ星を囲んで、2つの1等星と2つの2等星が四角形を作っています。三ツ星の下に、縦に3つの星が並び、“小三ツ星”と呼ばれています。その真ん中の星はかすんで見えます。オリオン座大星雲(M42)と呼ばれる散光星雲です。
オリオン座にある2つの1等星の名前は、赤い星がベテルギウス、青白い星がリゲル。日本では、赤と白の色の対比を、源平合戦の赤旗・白旗に見立てて、赤いベテルギウスを平家星、白いリゲルを源氏星と呼びならわしてきました。
次に昇ってくる星は、黄色みを帯びた白い星、1等星プロキオンを持つ、こいぬ座です。狩人オリオンが従える猟犬といわれます。プロキオンは、“犬の先駆”という意味を持っています。この星より、十数分遅れて昇るおおいぬ座の、シリウスの前に昇る星だからです。シリウスは,太陽を除く恒星の中で一番明るい星です。シリウスは、“焼きこがすもの” という意味です。
たくさんの1等星の一番最後に、一番明るい星が昇ってくるなんて、冬の夜空はすごいですね。
賢治と雨情の詩を紹介しておきます。
一 あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの こいぬ
ひかりのへびの とぐろ
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす
二 アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ
小熊のひたひの うへは
そらのめぐりの めあて
七つならんだ七つ星
七つならんで夜がふける
夜更けにやお星も皆ねむる
ねむれば静かに夜がふける
ねむれよ七つの七つ星
夜更けにやお星も
皆ねむる。
お星の數は
かぞへてみたが
片手にあまる。
この兒の歳も
かぞへてみたが
片手にあまる。
この兒の
歳は
片手と一つ。
(2010年12月07日の過去記事より再掲載)