色、いろいろの七十二候

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熊蟄穴・ゆず湯

ゆず
こよみの色
大雪
浅葱色あさぎいろ #00A3AF
熊蟄穴
鳩羽鼠はとばねずみ #9E8B8E

寒い季節に温かいお風呂。ゆずを浮かべれば、いい香りでなんともリラックスできます。
ゆずとゆず湯の良さは、これまでの記事を参照していただくとして、「お風呂で温まる」ということを考えてみましょう。

唐突ですが、人が不慮の事故で亡くなるのが一番多いのが、家庭内です。
交通事故死者数は年間4000人台に対して、家庭内での事故死者は14582人(平成25年人口動態調査)。このうち、お風呂での溺死が5156人と、割合としては最も多くなっています。

この多くは、いわゆるヒートショックが原因と見られています。浴室や脱衣場の温度と、湯船の温度差が大きく、急激な温度変化で血圧が上昇、脳梗塞や心不全を引き起こし、溺死してしまう、という事故です。

溺死という事故扱いではなく、病死としてカウントされるケースも含めると、年間で1万数千人がヒートショックで亡くなっているのでは、という推測もあります。

冬場、12月ごろからヒートショック死は急増します。間欠暖房では脱衣場まで暖房していないケースも多く、水廻りは北側の一番寒いところに配されがちなこともあって、家の中で最も寒い場所になることもしばしばです。
かくして不幸な事故が後を断ちません。寒い家、というのが命取りになる典型例です。

暗い話からスタートしてしまいましたが、お風呂は本来たのしいものです。体を清潔にする、という役割はもちろんのこと、リフレッシュ、リラックスにも大きな効果があります。

新湯もさることながら、ゆず湯のいい香りは、リラックスできますね。温浴効果も高いといわれています。

「お風呂であったまる」というのは誰もが使う自然な言葉ですけれど、実際のところ、40度のお風呂であったまって、人体の方まで40度になってしまってはたまりません。実は、お風呂であたたまる、ということは、体を冷ます、ということにもつながっているのです。

…? …? ちょっとわかりにくいですね。

人体は、実のところ強烈な発熱体です。食事を燃焼させて代謝を行い、熱を産生しています。この発熱は、重量あたりで言えば、太陽よりも人体のほうが大きい、というほどですから、夏はもちろん、冬も放熱をし続けています。これによって人体の熱的恒常性が保たれています。

生命維持には、体表面ではなく身体の内部の温度(深部体温)の維持が重要で、身体表面はそのために放熱を調整しています。暑い、寒いという感覚は、この放熱の速度の問題が大きく影響していて、放熱が十分できなければ暑い、放熱が速いと寒い、ということになります。

この深部体温が夜になると下がってきて、眠気を誘うようになります。
けれど、寒い季節は、体表面、手や足の先などが冷えた状態では、放熱を防ぐために血流が少なくなっています。放熱が少ない、ということは体温を下げる効果も少ないわけです。

だから、よい睡眠のために、うまく深部体温を下げてやりたい。
ここで、入浴の登場です。

お風呂であたためられた体は、血流がよくなります。血流が良くなるということは、放熱効果があがるということです。入浴後しばらくすると、この放熱によって深部体温が下がって、よい眠りが出来る、といわれています。

ヒトの身体の恒常性は面白いものですね。

私たちが暮らす建物も、日中は太陽の日射から、そして暖房によって熱を受け、蓄え、放熱して、ということを繰り返しています。
このバランス、いわば熱のデザインをしっかり行うことが、ヒートショックのような不幸な事故を減らし、快適な住まいをつくる第一歩です。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2014年12月07日の過去記事より再掲載)