森里海から「あののぉ」

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ハクセンシオマネキ

ハクセンシオマネキ

三豊市仁尾町の江尻川の河口にハクセンシオマネキというカニが生息しています。甲羅の幅が2cmくらいの小さなカニで、オスは左右どちらかのはさみが異常に大きくなっています(メスは左右ともに小さいはさみ)。オスはこの大きなはさみを動かして求愛行動をします。

ハクセンシオマネキの求愛

オスが白いはさみを高く振り上げてはおろす様子は、いかにも潮が満ちてくるのを招いているように見えることから、白いはさみを白い扇(ハクセン)に見立て、ハクセンシオマネキという名前がついたようです。

片方のハサミだけ大きいハクセンシオマネキ

香川県でも数カ所の河川の河口(干潟)に生息しているようですが、その個体数は少なく生息範囲も狭いようです。全国的に生息地や個体数が減っており環境省のレッドリストにおいて、絶滅危惧種「絶滅危惧II類(VU)」に指定されています。ちなみに香川県版カテゴリーでは「準絶滅危惧(NT)」です。
生息環境は干潟ですが、一面の美しい砂浜ではなく、海水と淡水が入り混じる汽水域の比較的栄養分の多い土壌を好むようです。

写真にもあるように黒っぽい泥と砂の混じったお世辞にも美しいとはいえない環境に生息しています。「生息域は河口域の満潮線付近、泥まじりのやや堅い砂浜か転石地帯で、日当たりが良いが干潮時にも乾燥せず、また水もかぶらない区域に限られる。(Wikipedia)」このような条件が揃った区域に限りハクセンシオマネキは生きていけるのです。人が美しいと思う透明度の高い水やきれいな砂浜だけではなく、少しよどんだ水や泥の混じった砂浜にも、そこに適した生物が数多く生息しています。見た目の美しさだけにとらわれるのではなく、多様な生物が生息できるよう様々な生態系を守っていくことが大切です。

泥とゴミとカニ

生物多様性の3要素の一つである「生態系の多様性」。それが維持されてこそ、数多くの生物が存続していけるのですね。今、河口付近の堤防、河床工事・潮止め堰の設置、また淡水の流入量の変化や水質汚濁などにより、この生態系の多様性がますます失われています。私たちには、自分たちの生存基盤を失わないためにも生態系の多様性を維持すること、あるいは再生していくこと(元に戻していくこと)が求められています。絶滅危惧種の生物たちは、私たちにそんなメッセージを発信しているような気がしてなりません。

黒い泥にいるハクセンシオマネキ

※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士