森里海から「あののぉ」

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アッケシソウ

アッケシソウ
 
アッケシソウ(厚岸草)という珍しい草があります。アッケシソウは波が直接当たることの少ない海岸の入り江などにできる塩湿地と呼ばれる特殊な環境に生育する塩性植物で、10月下旬~11月初旬には深紅に美しく紅葉します。
 


環境省レッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)[香川県レッドデータブックでは絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)]に分類されている希少な植物です。日本では1891年に北海道の厚岸(アツケシ)町で初めて発見され、その地名にちなみアツケシソウと命名されたそうです。その後1912年に牧野富太郎によって愛媛県で発見され、第二の産地として発表されました。最近まで北海道と香川県、愛媛県、岡山県の一部に自生が確認されていましたが、2014年版レッドデータブックによると岡山県と愛媛県も「野生絶滅」の範疇となっており、現在の野生生息地は北海道と香川県のみとなっています。
 
アッケシソウ

塩水の入る砂地に生える


香川県内でもかつては屋島塩田跡地、坂出大越塩田跡地、坂出木沢塩田跡地、宇多津臨海公園の復元塩田など数カ所に自生していたらしいのですが、今では三豊市詫間町の丸一鋼管詫間工場の敷地内にある砂湿地だけに自生しているのです。

丸一鋼管さんでは、社員の皆さんがアッケシソウの保護に取り組まれています。ISO14001の取り組みの中で、詫間工場業務課の活動目標として「アッケシソウ生育エリアの維持」を掲げられています。

 


 

 

先日、保護エリアを見学させていただく機会がありました。敷地の中に唐島という小さな島があり、その島を囲むように池状に海水エリアが残されています。その池は外部の海と繋がっており、潮の満ち引きも海と同調して起こります。それを利用して特殊な塩湿地を維持し、アッケシソウの生育環境を守っています。生物多様性の取り組みとして注目すべき活動であり、これからの企業のあり方について大きな示唆をいただいたような気がしました。

香川県唐島

アッケシソウ保護エリアのある唐島(カラシマ)


石積みで囲まれた池

石積の奥、田んぼのように見えるのがアッケシソウ


裏から見た唐島

唐島を裏から見たところ


工場用地の埋め立てを考え始めた頃、唐島の周囲は敷地内なので当然すべて埋め立てる予定だったようです。ところが当時の経営陣が唐島の美しさと希少性に気づいて急遽、島の回りを埋め立てずに現状のように海水の池にすることを思い立ち、県知事に掛け合って現在の土地形状が実現したそうです。なんと1983年のことだといいますから、その先見の明には驚くばかりです。

緑のアッケシソウ

青々と生い茂るアッケシソウ


CSRやSDGsが叫ばれる中、生物多様性とどう向き合うかは、これからの企業のあり方を考えるうえでとても重要なテーマだと思います。正面から向き合い、行動を起こしていくことが企業価値を高めることに繋がっていくのだと思います。丸一鋼管さんの取り組みから、改めてそんなことを感じた一日でした。

※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士