森里海から「あののぉ」

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舟屋(ふなや)

京都府の北部伊根町伊根地区の舟屋

伊根の舟屋群


京都府の北部、日本海に面した地域に二つの舟屋集落があります。ひとつは伊根町伊根地区にある通称「伊根の舟屋群」と呼ばれる集落で重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

京都の舟屋集落

重要伝統的建造物群保存地区の舟屋連棟

末広がりの舟屋連棟。プロポーションが格好いい。


海の水際ぎりぎりのところに、妻側を海に向けた2階建ての建物が伊根湾を取り囲むように建ち並び、独特の景観をつくり出しています。

伊根湾は日本海でありながら南向きで波が穏やかなこと、また日本海独特の潮の干満差がほとんどないことなどの条件が整ってこれらの舟屋群が成立しています。干満差が3m以上もある瀬戸内沿岸で育った私たちには想像しがたい光景です。しかも、今でもこの地区に230棟の舟屋が残っているというから驚きです。

京都伊根の最古の舟屋
伊根で最も古い舟屋(中央)。ほかのものと比べて圧倒的に美しい。

伊根最古の舟屋内部

同上内部


舟屋の船の入り口

船を取り込む斜路(伊根では石かコンクリート)


またこの地区のもう一つの特徴は海側の舟屋と道路を隔てて主屋があり、主屋と舟屋に挟まれたかたちの集落が形成されていること。というのも道路はもともと個人の中庭でありながら半公共的に他人が通ることもできたコミュニティ空間だったそうです。海側だけでなく陸側の街の表情も良い風情を醸し出しています。

舟屋集落の道路側には観光客の姿
陸側の町並み

舟屋地区陸側の町並み

茅葺の舟屋、舟納屋とも

昔の舟屋群(茅葺きで美しい)


もう一つの舟屋集落は「溝尻の舟屋(阿蘇の舟屋)」と呼ばれるもので、天橋立で仕切られた内側の海に面した地区に37軒ほどの舟屋が並びます。こちらは重要文化的景観に指定されています。

穏やかな海の溝尻の舟屋

溝尻の舟屋群

溝尻の舟屋内部

同上内部


伊根の舟屋は外海の舟屋ですが、溝尻のものは内海の舟屋で伊根よりもさらに穏やかな水面に浮かぶ小屋群です。船を引き上げる斜路が砂でつくられているものもありました。
伊根のものはほとんどコンクリートでできており、砂だと海に持って行かれると言われてましたので、内海の穏やかさを物語るつくりだと思います。

船を取り込む舟屋
船を取り込む斜路(砂浜が入り込んでいる様子がよくわかる)

伊根の舟屋は今や有名な観光地になりましたが、溝尻の舟屋はまだあまり知られていないと思います。場所も近いので是非対照的な二つの舟屋群をご覧になることをおすすめします。

海に張り出した小屋群

溝尻の舟屋景観

重要文化的景観阿蘇の舟屋

舟屋の白黒写真

昔の溝尻の舟屋群

※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士