色、いろいろの七十二候
第124回
款冬華・氷の華
画/たかだみつみ
こよみの色
二十四節気
だいかん
大寒
七十二候
ふきのはなさく
款冬華
藍色 #165E83
大寒です。大寒後15日で、寒が明けます。小寒から節分までが寒の内と呼ばれています。寒の内とは一年の内で、最も気温の低い季節です。
この寒気を利用して酒、味噌、寒天などが仕込まれます。
大寒の大々とした月よかな
一茶
一茶
大寒の埃の如く人死ぬる
高浜虚子
高浜虚子
大寒や転びて諸手つく悲しさ
西東三鬼
西東三鬼
大寒の堆肥よく寝てゐることよ
松井松花
松井松花
大寒の一戸もかくれなき故郷
飯田龍太
飯田龍太
大寒の起重機天を突きにけり
坪内捻典
坪内捻典
大寒を季語にする、さまざまな句を挙げてみました。声を出して詠むと、大寒という言葉は、どこまでも伝わるようなつよい響きを持っています。三鬼の句を除いては、「大寒」のあとに「の」があり、詠まれている情景はいずれも大きいですね。三鬼の句は「や」でつなぎますが、「転びて諸手つく悲しさよ」と詠まれ、自虐的にわが身に及びます。凍て土に転んで諸手をつくのは、肉体的に痛いことだけど、三鬼は、それ以上に痛さを感じるのは心持ちだと詠みます。
西東三鬼は、〈さいとうさんき〉と読みます。本名が齋藤敬直で、その〈さいとう〉と、英語のサンキューを捩って〈さんき〉と名乗りました。
水枕ガバリと寒い海がある
西東三鬼
西東三鬼
薄氷の裏を舐めては金魚沈む
西東三鬼
西東三鬼
先の句と、この二つの句は三鬼を代表する句です。三鬼は歯科医でした。患者のすすめで33歳のときに、俳句を始めました。どの句も、鋭利な感覚に研ぎ澄まされています。
氷を詠んだ句では、
レコードを聴きに駈けだす氷かな
石田波郷
石田波郷
という句が好きです。肺結核を患い、病気と闘いながら生をかみしめる句をたくさん遺した俳人です。ベットの上でこの句を詠んだ波郷という人も、感覚の切っ先が鋭いですね。
波郷のことは、辻井喬が『命あまさず』という小説にしています。
大寒の次節は立春です。
寒さを極めたあとに、いきなり春が立つというのは、絶望があるから希望があるようで救われます。春は、もうそこにやってきています。
文/小池一三
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2012年01月21日の過去記事より再掲載)
(2012年01月21日の過去記事より再掲載)