色、いろいろの七十二候

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款冬華・氷の華

氷の華
こよみの色

二十四節気

だいかん

大寒

七十二候

ふきのはなさく

款冬華
藍色あいいろ #165E83

大寒です。大寒後15日で、寒が明けます。小寒から節分までが寒の内と呼ばれています。寒の内とは一年の内で、最も気温の低い季節です。
この寒気を利用して酒、味噌、寒天などが仕込まれます。

大寒の大々とした月よかな
  一茶
大寒の埃の如く人死ぬる
  高浜虚子
大寒や転びて諸手つく悲しさ
  西東三鬼
大寒の堆肥よく寝てゐることよ
  松井松花
大寒の一戸もかくれなき故郷
  飯田龍太
大寒の起重機天を突きにけり
  坪内捻典

大寒を季語にする、さまざまな句を挙げてみました。声を出して詠むと、大寒という言葉は、どこまでも伝わるようなつよい響きを持っています。三鬼の句を除いては、「大寒」のあとに「の」があり、詠まれている情景はいずれも大きいですね。三鬼の句は「や」でつなぎますが、「転びて諸手つく悲しさよ」と詠まれ、自虐的にわが身に及びます。凍て土に転んで諸手をつくのは、肉体的に痛いことだけど、三鬼は、それ以上に痛さを感じるのは心持ちだと詠みます。
西東三鬼は、〈さいとうさんき〉と読みます。本名が齋藤敬直で、その〈さいとう〉と、英語のサンキューを捩って〈さんき〉と名乗りました。

水枕ガバリと寒い海がある
  西東三鬼
薄氷の裏を舐めては金魚沈む
  西東三鬼

先の句と、この二つの句は三鬼を代表する句です。三鬼は歯科医でした。患者のすすめで33歳のときに、俳句を始めました。どの句も、鋭利な感覚に研ぎ澄まされています。

氷を詠んだ句では、

レコードを聴きに駈けだす氷かな
  石田波郷

という句が好きです。肺結核を患い、病気と闘いながら生をかみしめる句をたくさん遺した俳人です。ベットの上でこの句を詠んだ波郷という人も、感覚の切っ先が鋭いですね。
波郷のことは、辻井喬が『命あまさず』という小説にしています。

大寒の次節は立春です。
寒さを極めたあとに、いきなり春が立つというのは、絶望があるから希望があるようで救われます。春は、もうそこにやってきています。

文/小池一三
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2012年01月21日の過去記事より再掲載)