展覧会情報 BORDER|郡 裕美

びお編集部

住まいのグラフィティ Vol.51「緑畔のテラス」で紹介したスタジオ(みゅう)一級建築士事務所 郡 裕美さんの展覧会情報です。
BORDER_koriyumiBorder / 郡裕美展

BORDER|郡 裕美

去年の夏、ブラジルの小島に滞在した。どこまでも続く空と海を全身で感じたくて、毎朝、日の出前に起きて海岸で瞑想をした。大きく息を吸い込むと朝の空気が私の体を満たし、ふーっと息を吐くと、さっきまで私の体の一部だった空気は再び大気へ返っていく。太陽が昇ると私は静かな海へと向かう。身体の境界が溶けて海水と一体化していく。砂浜には波の形が映されて砂紋ができ、浜に住む数々の生物の生存の跡が残る。足元にある貝殻を拾い、砂浜に線を描いてみる。朝日の鋭角の影がそれを際立たせ、世界をあちらとこちらに分ける境界線になり、同時に私の生きた証にも見える。日が昇りきると、砂の上の線は満ち潮のなかにすっかり消えていた。現れたり消えたりする境界線、BORDERをテーマにした作品を作りたいと思った。

郡 裕美

建築家/美術家。光や音、ミニマルな要素を用いて空間を変容させる作品を、ベルリン、ニューヨーク、東京、サンパウロ、バーゼルなど世界各地で発表。名古屋市生まれ。京都府立大学卒業後、コロンビア大学建築学科修士課程を修了し、翌1996年同大学准教授に就任。ニューヨークに拠点を設け、建築設計と並行してアート活動を開始。2015建築学会賞/ 2012 ARCACIA 建築賞ゴールドメダル/2005文化庁海外新進芸術家派遣など受賞多数。イエール大学、東京理科大学、名古屋工業大学など国内外で教鞭をとり、2016年より大阪工業大学教授。
人間は線を引く動物である、と言った人がいるかどうか知らないけれど、borderという言葉は国境とか境界など、人為的な線を想起させます。 実際、人間は地球上に線を引きまくってきました。 その結果どうなったかは、いまの世界を見ればわかります。
郡裕美は境界に関心を持ち続けてきました。 最近行ったブラジルでは、広い砂浜に線を引いて「世界をこちらとあちらに分け」、そこに人生の軌跡や現代世界の混乱に思いをはせたり、干潮の1~2時間だけ現れる砂浜サッカー場でボールをけって遊ぶ子どもたちが、自然が作る境界をうまく利用する様子に感銘を受けたと彼女は言います。
いま世界では境界をめぐって争いが絶えませんが、アーティストにとって境界は遊び場であり挑戦への誘いです。迷路のような路地にある古い町家ギャラリーで、これまで誰も見たことがない「border」を彼女は見せてくれるでしょう。

+1art カワラギ
<開催概要>

BORDER|郡 裕美

http://www.plus1art.jp

郡裕美
郡裕美さん
郡裕美 こおり・ゆみ
建築家/美術家。名古屋市出身。1983年京都府立大学生活科学部住居学科卒業後、1991年スタジオ宙を設立。1991年コロンビア大学建築学部修士課程修了後、1996 年コロンビア大学准助教授就任。イエール大学、名古屋工業大学、東京理科大学など、日米両国で建築教育に携わる。2016年より大阪工業大学教授。執筆:『居心地よさの発見 家づくりのコトバ200 』(エクスナレッジ)、『夢見る力』(王国社)。