びおの珠玉記事
第119回
手塩にかけて、おにぎりをつくろう
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2010年04月05日の過去記事より再掲載)
今年は例年より桜の開花が早いようですが、ちょうど見頃を迎えている地域も多いのではないでしょうか。
花より団子、ではありませんが、行楽のお弁当に欠かせない「おにぎり」。ご飯をにぎっただけなのに、なんだか不思議とワクワクする食べ物です。
おにぎりの歴史
1987年、石川県の杉谷チャノバタケ遺跡から、おにぎり状の炭化物が出土しました。およそ1800年前、弥生時代のものです。日本での「おにぎり」としては、これが最古だといわれています。
発見場所は高台で、すぐそばの平地には集落の遺跡が見つかったことから、お供えとして高いところにそなえていたのかもしれません。以前、餅は神様の食べ物だった、ということを紹介しましたが、同じように米でできているおにぎりも、神様の食べ物だったのでしょうか。
平安時代にはもち米をつかった「屯食(とんじき)」が食べられるようになります。鎌倉時代には、普通の米を使ったおにぎりが、陣中食として普及します。
江戸時代には、庶民の生活にもおにぎりが根づいています。安藤広重の「東海道五十三次細見図会 藤沢」では、楽しそうにおにぎりを食べる旅の一行が描かれています。
芝居見物や花見などの行楽にも、おにぎりが食べられました。
屯食から「どんしき」と変化していたおにぎりの名称は、江戸時代中期から「にぎり飯」といわれるようになります。
現在は「おにぎり」「おむすび」と呼ばれることが多いようです。
おにぎり? おむすび?
おにぎりとおむすび。この両者に違いはあるのでしょうか。
4/1の時点で、googleで「おにぎり」を検索してみると、約7,340,000件。いっぽうの「おむすび」は、約4,720,000件。
yahooでは、おにぎり約63,400,000件に対して、おむすび約9,190,000件。
ネット上には「おにぎり」のほうが露出が多いようです。
「おむすび」は、宮中の女性などが、おにぎりを丁寧に言い換えた表現という説や、古事記に登場する日本神話の神、神御産巣日(カミムスビ)から来ているなど諸説あります。おにぎりとおむすびは形も違う、という説もありますが、現代では同じものを指すと考えてよいのではないでしょうか。
地域や年代によっても呼び名の傾向が違うようです。あなたはなんと呼んでいますか?
おにぎりはなぜおいしいのか?
想像してみてください。
お花見で、あるいは運動会で、ピクニックなどで、午前中からお出かけしていて、さあお昼ごはん。
そこで出てきた物が、「梅干のおにぎり」の場合と、「茶碗にごはんと梅干」の場合。
おなじ材料で出来ていても、きっと印象も、そして感じる味も、全く異なるのではないでしょうか。
ふりかけを混ぜ込んだおにぎりと、にぎる前のおなじご飯を茶碗に盛ったものを食べてみましたが、なぜかおにぎりのほうがうまい! 茶碗に盛ったご飯にくらべると、にぎってあるぶん締まっているものの、ぎゅうぎゅうではなく、適度に空気が入っていることや、なぜか茶碗のご飯よりも一口が大きくなることなんかも、おいしく感じるポイントなのかな、と感じました。
手塩にかける
おにぎりがおいしい、もうひとつのポイントは、塩にあります。もっともベーシックなおにぎりとして、具のない「塩にぎり」も人気ですね。
かつて、徳川家康が家臣をあつめて、一番うまいものはなにか、という話題に触れた際、家康の側室・お梶の方(阿茶の局だったという説も)は、塩が一番おいしいと答えたそうです。
塩がなければどんな食材もおいしさを引き出せない、ということですね。そして、いっぽうで、一番まずいのも塩といったのです。どんな料理も、塩が効きすぎればまずくて食べられない、ということですね。
おにぎりでも、塩がなければ味気なく、効きすぎればしょっぱくてたまりません。にぎり方とならんで、この塩加減がおいしさの秘訣です。
「手塩にかける」という言葉があります。塩加減を自ら調節することから転じて、自ら世話をする、という意味を持っています。おにぎりは、まさに「手塩にかけて」つくる食べ物です。
コンビニおにぎり
コンビニエンスストアの主力商品のひとつ、おにぎり。セブンイレブンでは、平成20年度に14億個のおにぎりを販売したそうです。国民一人あたり年間に11個を買っている計算です。他のコンビニもあわせれば、もっと多くのおにぎりが売れているわけです。
「びお」のことだから、コンビニおにぎりを弾劾するのだろうと思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。ちょっといつもとは目線を変えた話題をご紹介します。
粗食のすすめの著者、幕内秀夫さんは、著書『40代からの元気食「何を食べないか」』の中で、他の嗜好品でお腹を満たすよりはマシだということで、そういうものを食べるぐらいなら、市販のおにぎり買って食べることを勧めています。
コンビニのおにぎりには、外観や具材からは想像の付かない原材料が含まれているものがあります。食品添加物は、あくまで法律の中で使われているからいいではないか、という人もいます。
もちろん、塩だって醤油だって、摂りすぎれば害になります。法律でOKだからよいのか、おいしければよいのか、日持すればよいのか、安ければよいのか、腹が満たされればよいのか、愛情がこめられているのがいいのか…あなたはおにぎりに何を求めますか?
おにぎりをつくろう
おにぎりをつくる、なんて、大きな声でいう話ではないかもしれませんが、コンビニに代表されるように、「つくる」ものではなく、「買う」ものになりつつあるのでは、という危惧をいだきながら、おにぎりをつくってみました。
オーソドックスな三角のおにぎり。山を神格化し、山を模してこの形になった、という説もあります。
手でくの字をつくって、辺を回転させながらリズミカルに握りましょう。
どの形にも共通していますが、ギュウギュウに握りすぎないこと。くずれないけどふんわりしている、というのが理想のおにぎりです。
実りを象徴する米俵を模した俵型は、行楽のお弁当や、めでたい行事の時によく使われるようです。
俵型は、カーブをつけた手で丸みをつけたあと、小口を整えます。
子どものとき以来の…
さて、おにぎりがどのぐらい手軽に出来るのか、あるいは難しいのか。
子どものときにつくって以来、20年近くおにぎりをつくったことのない独身男性に、おにぎりづくりに挑戦してもらいました。
予習は禁止してあります。さて、どうなるか。
手順としては、教科書通り、というわけにはいきませんでしたが、なんとかそれらしいものができました。
こんなふうに、つくるところから楽しめるのも、おにぎりのいいところです。
果たして、おにぎり人口がどのぐらいいるのかわかりませんが、おにぎりは「買う」ものだと思っている人も、たまには作ってみませんか。
不思議と、楽しい気分になりますよ。