びおの珠玉記事

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暦の話—2月はどうして28日なのか。

(2010/02/24の記事より再掲載)
人が社会生活を送る上でどうしても必要なのが、共通の時間軸です。西暦2018年2月5日、といえば(時差こそあれ)万人に共通の基準です。時計が刻む時刻も同じです。会社の始業時刻が「夜明けすぐ」とかでは、ちょっと困りますよね。
2月は他の月に比べると日数が短い特別な月です。2月にちなんで、今回は、暦と時間の話。

新暦と旧暦とは?

A. 暦は万人に共通って上に書いてあるけど、いろんな暦がありますよね。中国は、旧正月のほうを派手に祝うし。

B. いま我々が普段使っている暦は、「グレゴリオ暦」という太陽暦の一種で、1582年にローマ教皇グレゴリウス13世が制定したものです。日本で使われるようになったのは、明治5年(1872年)からで、「新暦」とも呼ばれます。それ以前は「旧暦」とも呼ばれる太陰太陽暦の天保暦を採用していました。旧暦の正月は「春節」と呼ばれ、中国では新暦の正月よりも、こちらを尊んでいますね。

グレゴリウス13世

 

A. いろいろ暦があるのに、どうしてみんなグレゴリオ暦になったわけ?

B. やはり暦は万人の尺度ですから、国際交流が進むと、自分の国だけ違う暦だと不便なんですよね。グレゴリオ暦はローマ生まれで、カトリックの布教とあわせて普及がすすみました。同じキリスト教でもプロテスタントの国では普及に時間がかかったといわれていますし、例えばロシア正教の教会では、グレゴリオ暦以前に普及していたユリウス暦が使われています。
また、イスラム教ではイスラム暦を用いていて、これは太陰暦で、1年が354日程度とグレゴリオ暦とは異なります。たとえば2018年2月5日は、イスラム暦だと1439年 5月19日です。

muhammad

イスラム暦はヒジュラ暦とも言います。

A. 全然違うじゃないですか。

B. イスラムの歴史にあわせて制定された暦ですからね。でも国際的には不便なこともあるからか、グレゴリオ暦と併用することもあるようです。イスラムだけでなく、ユダヤ人が建国したイスラエルでもユダヤ暦とグレゴリオ暦が併用されていますよ。

A. 暦って、いろいろあるんですね。今の話を聞くと、宗教が背景にあるようだけど?

B. 暦のはじまりは、もともと天体の周期に基づいているものです。天体周期に伴なう季節の変動を反映したのが暦ですが、季節変動にともなう農作業なども、以前は宗教的行事と結びついていたので、そういう意味では宗教的と言えなくもないですね。

1年が365日なわけ

A. いまの暦だと、1年は365日だけど、そのわけは? 一週間の7日でも割り切れないし、12でも割り切れないし、なんかすっきりしないんだけど。

B. グレゴリオ暦は天体の周期からなっているので、1年は太陽の回帰年の長さから定められています。これは厳密には365日ぴったりではなくて、365日5時間48分46秒です。

太陽

A. じゃあ、毎年少しづつずれちゃうのでは?

B. そう、そのとおり。だから4年に1回、うるう年があって、2月を1日増やして調整するんです。実際にはこれでも細かい調整が出来ないので、西暦が100で割り切れる年は平年、400で割り切れる年はうるう年という決まりがあります。

A. 1年が12ヶ月なわけは?

B. これは、月の満ち欠けに由来しています。そもそも「月」という名前がついているでしょ。

月

A. あ、たしかに。

B. 月はおおよそ1ヶ月で満ち欠けを繰り返します。これは平均値で29日と12時間44分2.9秒。普通の1ヶ月には満たないんです。

A. それじゃあ、1年も365日にならないですよね?

B. そう、そのとおり。だから月を由来に考えられた「太陰暦」は、1年が365日に満たないんです。そのままにしておくとどんどん太陽の周期・季節とずれてしまうので、太陽にあわせるために、うるう月をいれた「太陰太陽暦」がうまれたんです。日本の旧暦である天保暦も、太陰太陽暦でした。

2月はどうして短いのか。

A. そうそう、2月だけがなんで28日までと短いのか、うるう年の調整の月になっているのかも気になっていたんだけど。

B. 暦の由来は天体と、それにともなう農作業のためのものでした。古代ローマの暦では、農作業があまりない冬の1月、2月には名前がなかったそうです。その後に冬の月にも名前をつけましたが、1年の始まりは3月のままで、2月は1年の終わりの月だったんです。
グレゴリオ暦の前身であるユリウス暦で1年365日となり、うるう年の調整をする必要がでてきました。1年の始まりも1月とされたのですが、古い暦の名残で、2月は平年が29日、うるう年が30日となったんです。

A. なんだかけっこう適当な感じもするけど……あれ、2月、1日多くない?

B. そうなんです。当初は、偶数月は小の月、奇数月は大の月で、2月が29日までで、あわせて365日だったんです。

A. それがどうして2月が28日に?

B. これは、ローマの初代皇帝アウグストゥスに由来しています。アウグストゥス(Augustus)の名前は、8月(英名August)に冠されています。8月の名前に自分の名(Augustus/英名August)をつけたうえに、1日増やして31日にしたのです。それによって、9月以降の大の月・小の月もずれてしまいました。そして、8月に増えた1日は、当時1年の最後の月とされていた2月から「帳尻合わせのために」取られてしまったのです。

アウグストゥス

ローマ皇帝アウグストゥス

A. えー! 自分の名前はつけるは、1日増やすは……ちょっとスゴくない?

B. 時の為政者が暦を変更する、ということはたびたび行われていたようですよ。とはいえ、この理由にはちょっとビックリですが、2月が短いのには、こんなわけがあったということです。

1日はどうして24時間なのか

A. 年と月は大体わかったけど、1日はどうして24時間なの?

B. 日、というのは日の出から翌日の日の出まで、と考えられました。これがおよそ24時間です。もちろん日の長さにも変化がありますし、正確に24時間というのではなく、平均の値です。

clock

A. 「日」がつくから日の出に関係するのはわかるけど、どうして「24」?

B. 「月」を12回繰り返すと「年」になることから、時を刻むのに「12」という数字に意味があったんでしょう。1日は昼が12時間、夜が12時間で、あわせて24時間になったとか。古くは、「1日の始まりは日の出から」と考えられたことも多いようですが、現在の時計で0時が夜中なのは、昼と夜を同じぐらいの比率にしよう、ということのようです。

ほかにもいろいろある「12」

A. そういえば、十二支も「12」ですね。

B. これも天体や暦と無縁ではないですね。昔の日本では、時刻を十二支で表していましたしね。それから、びおがベースにしている「二十四節気」も、太陽の位置をもとに、12の節気と12の中気で構成されています。

A. 天体の位置が、季節に大きく影響するわけですもんね。

B. このごろは、人為的活動で気候が変わってしまうという恐ろしい時代になってきましたが……。

「週」は特別?

A. ところで、一週間は12進法でいえば6日になりそうですが、7日ですね。

B. 「週」は、ちょっとクセモノですよ。日月火水木金土という名称(七曜)は、バビロニアが発祥で、これこそ天体からとってはいるものの、今のように1週間がさだめられたのは、天体・自然の周期に由来していないんです。
1週間が7日なのは、ユダヤ教から来ているといわれています。「創世記」にある、神が6日で天地を創造し、7日目に休んだ、というものです。このためユダヤ教では7日に1日の安息日を設けました。これが他の宗教にもおよびました。
6日働いて1日休むというのは、経済活動に都合が良かったのか、いまでは我々が仕事をするときは、「年」や「月」より、まず「週」がベースになりますよね。

genesis

天地創造3日目

A. 「週」は人為的なんですね。

B. そうなんです。だから、自然・季節のことを考えるときには、年・月は出てきても、週という概念は本来は役に立たないですね。ところが最近では、東京での桜の開花が木曜・金曜に集中していることがわかったそうですよ。

A. え、じゃあ「週」も自然と関係あるってこと?

B. 残念ながら、そうではなさそうです。週の後半は、経済活動による排熱がたまり、これによって気温が高くなって開花を促しているのでは、と推測されているのです。

桜

経済活動が桜の開花時期に影響を及ぼす?

A. それって、面白いようだけど、よく考えると怖い話じゃない?

B. 怖いですよ。人間の活動が気候に影響をあたえるようになってきていることを端的に示している気がしますね。とはいえ、東京以外の都市では必ずしもこの結果になっていないようで、まだはっきりとしたことは言えませんが。

A. 温暖化に脱線したりしましたが、暦って面白いですね。

B. 天体、季節、数字の面白さに加え、時の皇帝がねじ曲げてしまったり、宗教的背景があったりと、人間の知恵と欲望が両方盛り込まれていますよね。
もともと農業向けにつくられた暦も、今は工業・商業に暦の主要用途が移ってしまったともいえるかもしれません。
おそらく私たちが生きている間には、せいぜい休日が追加される程度で、大きな暦の変化はないでしょうけど、古い暦に込められた知恵と、それを活かした暮らしを忘れないようにしたいですね。

参考書籍
暦の歴史 ジャクリーヌ・ド・ブルゴワン著 創元社
旧暦読本 岡田芳郎著 創元社