<遠野便り>
馬たちとの暮らしから教わること
第12回
9月:みのり
北国とはいえそれなりに暑かった夏が遠のいていきます。霧が立ち込めた朝は、外気を測る寒暖計が一桁の気温を指しています。こんな日に遠野の町や里を見下ろす高清水山の展望台に車で上ると、盆地を白く深く包む雲海を眼下に、正面に鎮座する六角牛山(ろっこうしさん)の方から昇る日の出を見ることができます。まもなくして霧が晴れると、5月には空を映す湖面のようだった盆地の田んぼは、黄金に色づいています。遠野は祭りと稲刈りの季節です。
高原にいた母馬とこの春生まれ、乳離れの時期を迎えている子馬たちも、それぞれの飼い主たちが専用のトラックで迎えに来て、つぎつぎ里に戻っていきます。毎年晩秋に開催される乗用馬市場(セリ)に備え、基礎的な調教を始めるためです。
一方、祭りの時期も迫っています。遠野郷八幡宮で開催される祭りのメインは、地域の郷土芸能団体が一堂に会して、神社内の馬場を巡る<馬場めぐり>とともに、それに先立って行われる<流鏑馬神事>です。
馬が駈ける神事の、畏怖をも感じさせる迫力。数多くの芸能の華やかさ賑やかさ。この熱気を味わい堪能するために、遠方から数多くのお客様が泊りがけでやってきて、当日の八幡宮の境内は祭りに参加する地元の人と観光客とで歩くのも困難なほどの混雑となります。