<遠野便り>
馬たちとの暮らしから教わること
第12回
9月:みのり


9月上旬、源流の水と馬糞で育ててきた私たちの田んぼも色づいてきた。
北国とはいえそれなりに暑かった夏が遠のいていきます。霧が立ち込めた朝は、外気を測る寒暖計が一桁の気温を指しています。こんな日に遠野の町や里を見下ろす高清水山の展望台に車で上ると、盆地を白く深く包む雲海を眼下に、正面に鎮座する六角牛山(ろっこうしさん)の方から昇る日の出を見ることができます。まもなくして霧が晴れると、5月には空を映す湖面のようだった盆地の田んぼは、黄金に色づいています。遠野は祭りと稲刈りの季節です。
そして9月の下旬、バインダーでの稲刈りは無事終了。これから2週間ほど天日に干して乾燥させる。今年の出来栄えに満足そうな責任者の太郎さん。
高原にいた母馬とこの春生まれ、乳離れの時期を迎えている子馬たちも、それぞれの飼い主たちが専用のトラックで迎えに来て、つぎつぎ里に戻っていきます。毎年晩秋に開催される乗用馬市場(セリ)に備え、基礎的な調教を始めるためです。

牡馬たちは、いつなんどきでも後肢で立ち上がり、みずからの力を誇示する用意がある。
一方、祭りの時期も迫っています。遠野郷八幡宮で開催される祭りのメインは、地域の郷土芸能団体が一堂に会して、神社内の馬場を巡る<馬場めぐり>とともに、それに先立って行われる<流鏑馬神事>です。

遠くからでも指笛で呼ぶと草原を駈け下りてくる。ただし、お目当てはたっぷりの青草。食べ物がなくてもいつでもどこからでも群れなして飛んでくる。という関係まではもうちょっと。

青草をしっかり食べ、風もなく暖かな秋の午後、牡馬たちとゆるりと散歩。上から見ると、アルのタテガミの、ウエーブが掛かったゴージャスさがよく分かる。
馬が駈ける神事の、畏怖をも感じさせる迫力。数多くの芸能の華やかさ賑やかさ。この熱気を味わい堪能するために、遠方から数多くのお客様が泊りがけでやってきて、当日の八幡宮の境内は祭りに参加する地元の人と観光客とで歩くのも困難なほどの混雑となります。

荒川高原の自宅ホースのジンガ郎。呼ぶと霧の中から現れた。9月は遠野郷八幡宮の流鏑馬出演がある。かれこれ10年以上、神事に参加している。

ジンガ郎の流鏑馬(やぶさめ)の雄姿。デジタル画像が見つからず印画紙にて。よく言えば射手に好まれる安定の走り。自宅トレーニング時の6割ぐらいのスピード。