色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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まちをつなぐ洗練された緑
——オフィスビルや集合住宅が
建ち並ぶ淀屋橋駅界隈

2014年頃から2~3カ月に1・2度程度、関西へ出張する機会があります。それまで関西方面にはあまり縁がなかったのですが、出張のついでに色々なまちへ立ち寄ったり、脚を伸ばして京都を訪ねたりしながら、まちの成り立ちや特徴を体感することを心がけています。
取引先の会社が今橋というまちにあり、いつも地下鉄の淀屋橋駅から歩くのですが、この駅周辺の緑が本当に気持ち良く、オフィスワーカーとすれ違う度に思わず「素敵なまちにお勤めですね、毎朝如何ですか?」等と、感想を聞きたくなってしまうほどです。

グランサンクタス淀屋橋正面

店舗正面、建具の色に合わせたサイン看板。際の緑が印象的です。


グランサンクタス淀屋橋店舗入り口の緑

店舗向かって右側、隣地との境界部分にはまとまった緑地帯があります。


私はこの通りの中で、一階に雑貨店の入った建物にひときわ目を惹かれます。この雑貨店は東京にもお店があり、そこによく通っていたことから大阪店の存在を知ることとなりました。カフェが併設されていて、店内からも通りの緑を感じることができます。
建物の低層部は繊細な装飾が施されたクラシカルな意匠で、調べてみたところ元は銀行だった歴史的な建築物の外壁を保存し、集合住宅として建て替えられたものだということがわかりました。一階周りはまた、充分な空間が確保されていて、公道の街路樹以外に民地側にも多くの緑があります。都市部ゆえ、舗装面は自然石やタイルなどの硬い素材が中心ですが、大きなプランターを使って高さを出したり、高木の足元にはグランドカバーがたっぷりと設けられていたり、充分な緑量を感じさせるための工夫や洗練されたデザインが各所に見られます。
グランサンクタス淀屋橋集合住宅のエントランスのプランター

通りの側面に集合住宅のエントランスがあり、大きなプランターが存在感を放っています。


グランサンクタス淀屋橋外観

基壇部分は1929(昭和4)年に改修された姿。YR系のテラコッタタイルで覆われています。


角がアールに形成されているグランサンクタス淀屋橋

建物のコーナーは局面になっていて、外壁の厚みを感じさせます。


周辺一帯は大規模な建築物が建ち並ぶまちなみですが、足元に緑があることで何より歩くことが楽しく・快適になります。真夏や真冬・あるいは雨天時など、様々な季節を体感すると尚更、街路樹があることの恩恵や、陽射しを通して緑が外壁や舗装面に様々な彩りを与えている様子が感じられるようになります。都市部で特に重要だと感じるのが、建物や工作物(境界の塀や案内サイン等)の「際(きわ)」にある緑です。壁面が地面に接する部分にわずかでも緑があると、人工物が持つ硬質さや均質さがぐっと緩和され、際の緑が連続することによりまちなみに連続感が生まれてきます。この通りでは建築物の周囲を縁取る様な線的な緑・ファサード前の面的な緑・そして歩行空間に立ち上がるボリュームのある緑が一体的につながることとで、歩くことが楽しく・快適に感じられる空間が形成されていると感じています。
淀屋橋駅から京阪北浜駅への通り

淀屋橋駅から京阪北浜駅へ向かう通りの緑。


淀屋橋駅近くの交差点

淀屋橋駅近くの交差点部分。緑の線や面がまちなみに連続性を与え、柔らかな立体感を生み出しています。


こうして何度か通ううち、それまでイメージしていた大阪のイメージが随分変わってきました。道頓堀や心斎橋などの繁華街が持ついわゆる「大阪らしさ」は確かに魅力のひとつなのですが、大阪には歴史的な建築物が数多く残されていて、オフィスや店舗として現役で活躍している「いいビル」を巡ることも、出張の楽しみのひとつとなっています。
グランサンクタス淀屋橋の測色

測色の様子。

※参考:
https://www.goodrooms.jp/journal/?p=9079

 

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★★★
全体のカラフル感 ★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。