森里海から「あののぉ」

6

讃岐の鏝絵こてえ

讃岐の鏝絵 漆喰 火事避け

よく見られる青と白の線状模様

日本の田舎町を旅すると、そこにしかない風景に出会うことがたまにあります。他の地域では見られない独特の地形や建築、あるいは構築物など。旅の途中でそんな風景に出会うと気分は高揚し、嬉しくなります。旅の醍醐味ですね。ところで香川県にもそうした風景はあるのでしょうか?あるとしたらそれは何でしょうか。

県外からのお客さんと車に同乗して讃岐平野を走っていると、よく言われるのは「おむすびのような山が多いですね」と「立派な入母屋のお家が多いですね」ということ。そして「その立派な家の矢切の部分等にある青い線状の模様は何ですか?」と言う質問です。

讃岐の鏝絵 漆喰 火事避け

このよく質問される白や青の線状の模様は、「讃岐の鏝絵」と呼ばれるものです。左官職が漆喰に色粉を混ぜて鏝を使って模様を描いているのです。私たち香川県人はあちこちでこうした家を見る事が多いので、殆どの人は特別疑問を持つこともないのではないかと思います。しかし、これがどう言う謂われがあるのかを知っている人は意外に少ないのが現状なのではないでしょうか。かくいう私もこれまで特別興味を持つことがなかったので、数年前までどういう意味があるのかを知りませんでした。県外からの客人に何度かこの鏝絵の意味を質問され、調べてみたところ、どうやら「火事避け」の意味があると言うことがわかってきました。青と白の漆喰で描かれた模様は波の模様などの水を表現したもので、火が発生しないようにとの願いを込めているのだそうです。
讃岐の鏝絵 漆喰 火事避け

この青い線状の鏝絵は最もオーソドックスなものですが、他に鯉のぼりや打出の小槌などを外壁の出隅の部分に立体的に描いている場合もよく見かけます。きっと子供達の成長やお金持ちになれるようにという願いを込めて描かれているのでしょう。讃岐平野にちりばめられた左官芸術「鏝絵」。点在するいろいろな鏝絵を探して廻るのも乙な「讃岐路の旅」かも知れません・・・。

讃岐の鏝絵 漆喰 火事避け

立体的な波と魚?の模様

讃岐の鏝絵 漆喰 火事避け

青以外の色が使われることも

讃岐の鏝絵 漆喰 火事避け

黄土色の鏝絵

日本の地域がどこも同じような表情の無個性な街に変わりつつある今、その地域独特の「そこにしかない風景」を守ること、あるいはつくりだすことは地域再生の観点からもとても大切な事のように思います。

※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士