森里海から「あののぉ」

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大谷石と徳次郎とくじら石の石蔵集落

大谷石で作られた建築の窓

 

大谷石は栃木県宇都宮市北西部の大谷町付近一帯で採掘される軽石凝灰岩で、建築材料としても好んで使われてきました。建築家フランク・ロイド・ライトが、旧帝国ホテルに大々的に使用したことで一躍有名になった石材です。大谷石の採掘場は、地下で切り出す坑内掘りが多いことが特色です。大谷資料館として一般開放されている地下採掘場跡は、圧倒的なスケール感で素晴らしく、非日常的空間体験ができます。

大谷石地下採掘場跡
大谷資料館

その大谷資料館のほど近く、西根地区の徳次郎とくじら町というところに、大谷石を使った石蔵が点在する集落があります。車であたりを走るだけですぐに個性的な石蔵をいくつも見つけられます。


大谷石で装飾された窓枠や窓台、ひさし、持ち送り、オーダーなど手の込んだものも多く現存しています。同じデザインのものはほとんどなく、競って個性を主張しているかのようです。窓のディティールが美しい大谷石の石蔵
大谷石の蔵の外観

なかに大谷石とはちょっと違った表情の石蔵もいくつか見受けられました。ライトグレーのシックな色合いのこの石は徳次郎とくじら石と呼ばれるものらしく、地元徳次郎町でしか採れない貴重な石のようですが、現在はほとんど流通していないようです。

西根地区の徳次郎町の石屋根

徳次郎石の石屋根

栃木県宇都宮市大谷町の蔵
 

徳次郎石の外壁はジョイント部に漆喰を塗りつけ、海鼠壁なまこかべのような独特のパターンをつくっているものもあります。また屋根材としても使われており、大谷石の石蔵以上にこだわった造りとなっているように見受けられました。


長年の風雪に耐えた大谷石や徳次郎石の風合いは、集落の風景をつくっています。地元の材料を使った、ここにしかない建築とそれらがつくりだすここでしか出会えない街の風景。そんな風景が日本中にもっと増えると良いのに、と強く思う今日この頃です。
庇と円柱の装飾柱がある石蔵

※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士