森里海から「あののぉ」

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高開たかがいの石積

芝桜が綺麗な高開の石積み

徳島県吉野川市美郷大神の高開集落に残る石積の段畑。
そこには、まるで空に上る階段のように石垣が続く美しい風景が残っています。

山の斜面に石が積みあがっている高開の石積み
何段にも積み重なった壮大な石積み

徳島県は急峻な土地に農地を開き家を構えてきた所が多く、石積みが多く残っています。それらはお城の城壁によく見られるようなカッチリとした隙間のない石垣ではなく、あまり整形していない野面石のづらいしを使用した、方向などの規則性のない乱積みという方法で組み上げられています。また空石積みからいしづみと呼ばれる、コンクリートやモルタルを一切使用しない積み方です。空石積みの良いところは、崩れたり緩んだりしたら何度も積み直せるところです。
高開の石積みのアップ

また、コンクリート擁壁は壊れたら瓦礫になってしまうのに対し、環境に優しい構法でもあると言えます。また自然石のつくりだす様々な空隙は多様な生き物の生息場所としての機能も併せ持ち、ビオトープの一つのタイプとして生物多様性の保全にも大いに貢献します。人が作り上げた場所が生物多様性を高めているのです。人と自然が共生している素晴らしい例ですね。

徳島県吉野川市美郷字大神高開の石積み

空石積みは棚田や段畑など農地の擁壁面に使われることが多く、全国各地に残っています。
石積みの技術は専門家ではなく、農家の人たちによって家族や地域で代々受け継がれてきたのです。そうした素人たちが積んだ石の擁壁が棚田や段畑の美しい風景をつくり出してきたのです。石はあたり前のようにすぐ近くで採れる自然石を使うので、地域によって特性があり異なる表情をもちます。その地域性がそれぞれの里の風景をつくり、独自の文化として各地に根付くのです。高開の石は独特の横長で角張った形状を持っています。この石の表情がこの地ならではの段畑の風景を形成しています。

徳島県吉野川市美郷字大神高開の石積み

全国に残る石積みの風景、この風景を守り継承していくこと、また新たに地域独自の風景を生み出していくこと。特別な場所としてではなく、日常の風景の中に残し、又新たにつくっていくこと。そうしたことが豊かで魅力的な地域、街をつくることのひとつの重要なファクターになるのだと思うのです。高開の石積みを眺めていると改めてそんな思いを強くします。

高開の石積み


安易にコンクリート擁壁に頼るのではなく、素朴な石積みを建築や土木の様々なシーンで検討することは今後持続可能な社会をめざす上で、とても大切な事の一つだと思います。

山桜と高開の石積み

※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士