小池一三
2020年03月11日更新
Kotori Worksの事務所北側を流れる川の土手。 2020年3月6日撮影

3.11を忘れない。

2020年3月11日
一般社団法人 町の工務店ネット代表 小池一三
土手の菜の花

Kotori worksの事務所北側を流れる川の土手。
2020年3月6日撮影

2020年の3・11は、新型コロナウィルスの影響を受けて追悼式が中止される。政府主催の追悼式は、もともと大震災から10年を限りに中止される予定だったけれど、そういうことで過去に追いやっていいものかどうか。今年の中止は、そのことを一年早く考えさせられた。

新聞報道を見ると、震災を受けた現場は、未だ復興途上に置かれている。特にフクシマにおいては、戻りたくても、戻れない現実が続いている。

原発事故による汚染水は、首相により「アンダーコントロールされている」と言明された結果、オリンピック開催が決まったのに、未だ「アウト・オブ・コントロール(制御不能)」の状態に置かれているのである。

あの震災後、町の工務店ネットは「まず建築でやれることをやろう」と誓い合った。電力に依存するのではなく、「自然室温で暮らせる家」を提案したのだった。けれども喉元過ぎると熱さを忘れたのか、電力依存の現実は続いている。

「いのちを価値軸」とし「びお」を掲げる我々は、3・11を忘れないことを、無力さを覚えつつ、みだりに悲観もせず、楽観もせず、この誓いを行き通して行こうと、改めて誓うものである。

最近の仕事から

先般、いい仕事を見てきた。

福岡の工務店、悠山想がうきは市に建築したオーガニック製品で知られる(株)Kotori worksの事務所の建物である。

コトリワークスの外観

建物の北側の表情。北側の窓は、順光の窓なので、風景が美しく見える。

この会社は、東日本大震災で被災され、それを機に、仙台にあった事務所ごと福岡に移され、4回にわたって引っ越しを繰り返しながら、ようやく「(つい)の事務所」をうきは市に築かれた会社である。
(会社の理念「命を守る、道具としての服づくり」経緯・プロフィールについては、https://nunonap.com/user_data/aboutus.phpに詳しい)

焼き杉と木の軒天

木組みが印象的な、建物西側の屋根廻りの表情。

まず、土地の選択がすばらしい。

「筑紫次郎」の異名を持つ筑後川に注ぐ支流巨瀬川の桜並木の土手に沿った土地で、私が訪れたのは3月6日で、小さな蕾を桜がつけていて、菜の花が咲いていた。敷地の南側に、青々とした水田と畑があり、その向こうに耳納山地が連なっていて、北側には、遠くに背振山地を望める土地である。

リビングから広がる自然の景色

1階、ダイニングキッチンから南の風景を望む。

絶好のロケーションで、ここに立った都市圏からの就職希望者は、就職するというより、ここに移住できること自体を希望するという。

木の梁が美しいコトリワークスのオフィス

2階から、1階オフィスを見る。

建物は、いつもの悠山想の仕事らしく、大径のムク材をふんだんに用い、伝統的な木造建築によるものだった。

同行した建築家の坂田卓也は、「大壁の漆喰仕上げによって、現代的な表情になっている」といった。私にはそれが、Kotori worksが扱う良質なオーガニック製品に実によくマッチしており、びおソーラーと薪ストーブによって、寒くも暑くもない室内気候が実現されており、これからの事務所建築の好例になるものと思われた。

暖かい薪ストーブ

階段室。木の階段と漆喰の壁。1階の薪置き場とストーヴと煙突がアイストップになっている。

薪ストーブとトルソー

ストーブ廻り。ここは大きな空間の溜まりの場になっていて、皆をつないでいる。

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著者について

小池一三

小池一三こいけ・いちぞう

1946年京都市生まれ。一般社団法人町の工務店ネット代表/手の物語有限会社代表取締役。住まいマガジン「びお」編集人。1987年にOMソーラー協会を設立し、パッシブソーラーの普及に尽力。その功績により、「愛・地球博」で「地球を愛する世界の100人」に選ばれる。「近くの山の木で家をつくる運動」の提唱者・宣言起草者として知られる。雑誌『チルチンびと』『住む。』などを創刊し、編集人を務める。

住まいマガジン びお