まちの中の建築スケッチ

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江戸東京博物館
—— 巨大な空中の箱——

江戸東京博物館

東京には大規模な建築は数多くあるが、その中でも江戸東京博物館は存在感のある、巨大な高下駄のような形をしている。箱を空中に持ち上げる形の建築というのは、菊竹清訓(1928-2011)の作品に少なくないが、それにしても江戸東京博物館は巨大で、視界に飛び込んでくると驚くスケールである。
残念ながら現在は大規模改修のため閉館中で、中に入れない。正面の広場から見上げた迫力も味わえないが、少し離れた、大相撲初場所を興行中の両国国技館の側から全景の見えるところをさがしてスケッチした。開館中であれば、手前の大階段を多くの人が上って行く光景になったのであろうが、手前に柵が置かれ人が入れないようになっていた。
少し離れたところからでも、巨大な天井面を見上げることになるが、柱から張り出した容積も半端ではない。耐震性を審査するにあたって、張り出した部分が上下に揺すられることによる安全性の検討が話題となったというようなことも思い出された。上下動も増幅されるということを想像すると、計算で安全が確認されているとはいえ、あまり居心地のよいものではない。
隅田川沿いの首都高速を車で走っていても、すでに紹介したアサヒビール本社ビルほどではないが、青い屋根の国技館と、その奥の巨大な箱の江戸東京博物館は、けっこう目立つ存在である。地上で眺めると、その間に東京都水道局のポンプ所がけっこう大きなコンクリートの塊となって鎮座していることに気づかされた。スケッチの中でも階段の左手に視界を遮っている。確かに東京の生活を守る大切な施設で、簡単に移設できるものでもなかろうし、博物館に来た人にも存在を示すことになるのは目障りであってもやむを得ないということであろう。またさらに左奥にはスケッチには入っていないが、高層のホテルがすっくと立っている。このような取り合わせは、都市景観的には、これを東京らしさというべきかもしれないが、都市計画として、もう少し何とかならないものかと思ってしまう。
菊竹作品で有名な自邸は、文京区にある「スカイハウス」で、建築雑誌の「構造パースペクティブ」の企画で取り上げさせてもらった。RC構造で、10m角の正方形の平面を壁柱で持ち上げた形をしており、構造を担当された谷資信(1922-1999)は、構造計画が建築デザインになると書いている。江戸東京博物館も構造計画がそのまま建築デザインになっているといえる訳であるが、スカイハウスを5倍から10倍も大きくしても、ちゃんと建築のデザインにしてしまうというのは、凄いことだと、この巨大な箱を眺めつつ改めて思った。

著者について

神田順

神田順かんだじゅん
1947年岐阜県生まれ。東京大学建築学科大学院修士修了。エディンバラ大学PhD取得。竹中工務店にて構造設計の実務経験の後、1980年より東京大学工学部助教授のち教授。1999年より新領域創成科学研究科社会文化環境学教授。2012年より日本大学理工学部建築学科教授。著書に『安全な建物とは何か』(技術評論社)、『建築構造計画概論』(共立出版)など。